多発性単ニューロパチー(mononeuropathy multiplex)は,単ニューロパチーが多発した状態を示す症候名であり,疾患名ではない。多発性単ニューロパチーを呈する疾患のほとんどは治療介入が必要で,中には迅速な診断と治療開始を必要とするものも含まれる。代表的な原因疾患の血管炎性ニューロパチーでは,主に小動脈から細動脈に起きた血管炎により血管内腔が閉塞し,末梢神経の虚血を引き起こす。病態が虚血(梗塞)であるので,迅速な診断と治療を必要とする。免疫介在性脱髄性ニューロパチーでは,節性脱髄(=patchyな脱髄)を呈するので,病初期あるいは軽症例に多発性単ニューロパチー様の症候を呈することがある。特殊な免疫介在性ニューロパチーとして,多巣性運動ニューロパチーがある。この疾患は多巣性の脱髄を運動神経のみに起こす。
多発性単ニューロパチーの診断の第一歩は臨床所見である。血管炎性ニューロパチーでは,神経診察から具体的に障害された神経と部位とを推定できる場合がある。神経解剖と徒手筋力試験に自信がない場合は,明らかな左右差と一肢の中での部位差(例:橈側は障害されているが尺側は正常等)に注意を払う。臨床的に多発性単ニューロパチーと診断できた場合,炎症所見や白血球数とその分画を確認し,明らかな炎症反応がみられれば,全身性血管炎症候群に伴う血管炎性ニューロパチーを念頭に精査を進め,神経生検等の病理診断を考慮する。一方で,免疫介在性脱髄性ニューロパチーでは,原則として全身性の炎症反応がみられることはない。診断のための検査として神経伝導検査の重要性が増す。血管炎,脱髄のいずれかにかかわらず,重度になると多発ニューロパチーとの区別が難しくなる。
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