□新種のコロナウイルス(severe acute respiratory syndrome-coronavirus:SARS-CoV)の感染によって起こる急性呼吸器感染症である。2002年11月に中国南部広東省で発生,同年3月以降世界的に拡大し,死亡774人を含む8096人の症例が発生した(致死率9.6%)。症例の約20%が医療従事者であった。WHOを中心とした世界各国政府,研究機関,公衆衛生機関等の連携により2003年7月に封じ込められた。
□潜伏期間は通常2~7日(最長10日)。
□臨床経過は,無症状,軽度のインフルエンザ様症状のみの場合から,致死的な呼吸不全に至るまで様々である。
□初発症状は,発熱,悪寒戦慄,全身倦怠感の頻度が最も高く,頭痛,筋肉痛,乾性咳嗽などもみられる(初期に咳嗽がないこともあり,SARS患者との接触歴が明らかでない場合,初発症状からSARSを疑うのは困難)。初期症状で湿性咳嗽や咽頭痛は通常みられない。
□2~7割の症例で下痢を認める。
□重症例では,発病第1週後半から第2週にかけて,呼吸困難が増強,低酸素血症を呈する。約2割の症例が重症の呼吸不全や急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)へと進展する。
□神経学的症状は稀である。
□肺病変が進行すると,聴診上吸気時ラ音を認める。笛声音(wheeze)は通常認めない。
□胸部X線所見は,通常一側性の浸潤影に始まり,数日のうちに下肺野優位に多発性浸潤影へと進行する。スリガラス状陰影を伴うこともあり,多彩な所見を呈する。
□胸部CTでは,しばしば閉塞性細気管支炎・器質化肺炎(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia:BOOP)に類似した所見を呈する。
□確定診断は,臨床検体(鼻咽頭スワブ,喀痰,尿,便)からのSARS-CoVの分離やPCR,LAMP法によるウイルス遺伝子の検出,血清中のSARS-CoV特異的抗体(ELISA法や蛍光抗体法によるIgM抗体・IgG抗体,中和抗体)の検出による。検査は,全国の地方衛生研究所,国立感染症研究所で行われる。
□SARS特異的IgG抗体は,発病後14日頃から陽転しはじめ,3週目で約2/3が,1カ月でほぼ100%が陽転する。
□SARS-CoVは,病原性の強さからクラス3病原体に分類されており,ウイルス分離,中和試験は,BSL3実験室で行わなければならない。
□SARS-CoVは,(+)一本鎖RNAウイルスであるコロナウイルス科ベータコロナウイルス属の一種で,エンベロープを有し,エタノールや次亜塩素酸など,様々な消毒薬に感受性がある。
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