□幼虫移行症とは,ヒト以外を終宿主とする寄生虫がヒト体内に侵入し,幼虫のままでヒト体内を移行して様々な病害を引き起こす疾患をいう。
□幼虫移行症の原因寄生虫には以下のようなものがある。
・線虫類:アニサキス,イヌ回虫,ネコ回虫,顎口虫,旋尾線虫,イヌ糸状虫,広東住血線虫,イヌ鉤虫など動物由来の鉤虫
・吸虫類:宮崎肺吸虫,肝蛭
・条虫類:エキノコックス(単包虫,多包虫),マンソン孤虫,有鉤嚢虫
□本項では他項との重複を除き,実地医家が遭遇すると思われる動物由来の鉤虫感染症,肝蛭症,マンソン孤虫症,有鉤嚢虫症について記載する。
□土壌に存在するイヌ鉤虫,ブラジル鉤虫の感染幼虫の経皮感染による。
□多くは海外旅行に関連した感染症である。感染地は東南アジアや中南米が多い。
□皮膚の線状爬行疹(creeping eruption)が主症状である。
□セリ,クレソンなど水辺に生息する植物に付着した感染幼虫の経口摂取により感染する。
□ヒトに摂取された感染幼虫は腸管から腹腔へ移行し,さらに肝臓表面から肝実質に侵入し,胆管内で成虫となる(急性期)。
□症状は虫体の移行部位に依存し,肝実質移行期は発熱,心窩部痛,右季肋部痛が主症状である(慢性期)。
□虫体が胆管内に到達する時期には,心窩部痛・右季肋部痛に加え黄疸が出現する。
□マンソン孤虫が寄生したトリ,カエル,ヘビの筋肉を生で摂取することで感染する。
□皮膚の移動性病変(腫瘤,紅斑,硬結)を主症状とする。
□稀に胸腔や中枢神経など思いがけない部位へ迷入することもある。
□有鉤条虫卵で汚染された水や食品を摂取することで感染する。
□小腸上部で孵化した幼虫は腸管壁に侵入し,血行性に全身に散布され,嚢虫(Cysticercus cellulosae)を形成する。
□成虫(有鉤条虫)の腸管寄生があると自家感染により播種性有鉤嚢虫症を起こすことがある。
□嚢虫は諸臓器に形成されるが中枢神経や眼に親和性が高い。嚢虫形成部位に応じた症状(頭痛,痙攣,巣症状)が出現する。
□皮下・筋肉の嚢虫は移動性を持たない腫瘤としてみられる。
□末梢血好酸球増多は伴わないことが多い。
□生検で虫体断面が得られれば確定診断となる。虫体が得られなかった場合も表皮内に寄生虫が移動した痕跡(虫道worm tunnel)がみられ,その内部に好酸球の浸潤や脱顆粒像,フィブリンの析出が観察されることが多い。
□著明な末梢血好酸球増多がみられる。
□急性期は腹部エコーやCTで膿瘍形成がみられる。
□慢性期ではERCPで胆管内に虫体の欠損像がみられる。
□末梢血好酸球増多がみられる。
□病変部の切開創や新鮮生検標本内から生きた虫体が出てくることがある。
□虫体の病理所見:線虫類とは異なり体表のクチクラや内部に消化管はみられない。マンソン孤虫の内部は柔組織と呼ばれ,その間質は不均一で筋線維束が網目状に見える。柔組織内には条虫類に特有の石灰小体という同心円状の構造物があり,HE染色でヘマトキシリン強陽性,Kossa染色で茶褐色に染まる。
□虫体が存在する臓器に応じた画像の異常所見がみられる。
□有鉤条虫卵で汚染された水や食品を摂取することで感染する。
□虫体の病理所見:マンソン孤虫と同じく柔組織および石灰小体が観察される。
□嚢虫壁(bladder wall)がみられること,嚢虫頸部の指状貫入(digital invagination)がみられる。
□中枢神経系の画像検査は,嚢虫が形成されてからの経過とともに所見は変化する。嚢虫が形成されたばかりの時期は周囲に浮腫を伴わず,造影効果も明らかではない。その後,経過とともに嚢虫壁が厚くなり,周囲の浮腫や造影効果が明らかとなる。陳旧性の病変では石灰化を伴う。
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