□ペストは,腸内細菌科に属するグラム陰性短桿菌であるペスト菌(Yersinia pestis)によって起こる感染症である。無治療の場合の致死率は30~60%と高く,かつては黒死病として恐れられた。現在もアフリカ,中国,インド,東南アジア,南北アメリカなどで散発例や小流行がみられている(近年はアフリカが主)1)。
□ペスト菌は流行地域のげっ歯類(ネズミ,リス,プレーリードッグ)やウサギ,ネコなど小動物に存在し,感染動物を刺咬したノミに刺されることでヒトに感染する。そのほか,感染動物から直接感染する場合や,肺ペスト(後述)患者の気道飛沫を介した感染もある。
□本菌は生物兵器として研究されてきた歴史を有し,米国CDC(疾病管理センター)は,ペスト菌をバイオテロのリスクが最も高いカテゴリーAに分類している2)3)。
□わが国では,ペストは感染症法において1類感染症に指定されており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。入院治療は第一種感染症指定医療機関において行われる。
□ペストは,リンパ節炎,敗血症などを起こし,重症例では高熱,意識障害などを伴う急性細菌感染症であり,死に至ることも多い。臨床的所見により以下の3種にわけられる。以下,感染症法に基づく届出基準より抜粋引用する。
□腺ペスト:ヒトのペストの80~90%を占める。潜伏期は2~7日。感染部のリンパ節が痛みとともに腫れる。菌は血流を介して全身のリンパ節,肝や脾でも繁殖し,無治療の場合多くは1週間くらいで死亡する(無治療の場合の致死率は50~90%)。ノミ刺咬により感染した場合,多くはこの病型となる。
□敗血症ペスト:約10%を占める。時に局所症状がないまま敗血症症状が先行し,皮膚のあちこちに出血斑が生じて全身が黒色となり死亡する。
□肺ペスト:ペスト菌による気管支炎や肺炎を起こし,強烈な頭痛,嘔吐,39~41℃の弛張熱,急激な呼吸困難,鮮紅色の泡立った血痰を伴う重篤な肺炎像を示し,2~3日で死亡する。バイオテロによりエアロゾル化した本菌を吸入した場合や,肺ペスト患者の気道飛沫を吸入した場合などはこの病型となりうる。
□ペストの確定診断のためには,血液,リンパ節腫吸引物,喀痰,組織を検体として,病原体の検出,蛍光抗体法によるエンベロープ抗原(Fraction 1抗原)の検出,PCR法による病原体の遺伝子の検出,もしくは血清診断として赤血球凝集反応によるエンベロープ抗原(Fraction 1抗原)に対する抗体の検出(16倍以上)が必要である。
□白血球増加や血小板減少,DICなどがみられるが,非特異的。肺ペストでは胸部画像にて肺炎像がみられるが特異的な所見はない。縦隔肺門リンパ節腫大をみることがある。
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