(東京都 F)
AGDは,4リピートタウオパチーに分類されている変性疾患で,4リピートタウという蛋白質が,神経細胞の樹状突起に蓄積したもので,主な原因病理が嗜銀顆粒による変性と考えられる認知症のことです。そもそもは,Gallyas-Braak銀染色で嗜銀顆粒が紡錘形,コンマ状に見えることから,この名前がつけられました。ちなみに,アルツハイマー型認知症では,アミロイドβとタウが蓄積して,神経細胞脱落を引き起こすと考えられていますが,この場合のタウは,3リピートと4リピート両方が,混在しています。
もともとAGDは神経病理学的所見から発見された疾患であり,1987年に,著名な神経病理学者であるBraak夫妻により報告されました。その後,臨床病理学的な研究から,AGDの本態が徐々にわかってきました。今では,高齢で記憶障害を発症し,頑固,易怒性,被害妄想,性格変化,暴力行動などの行動・心理症状がみられ1),前頭側頭型認知症などと臨床診断されることもあります。また,進行は比較的緩やかで,記憶障害を伴わないケースもあり,コリンエステラーゼ阻害薬の効果は限定的2)と考えられています。
さらに,AGDは,まず海馬,扁桃体などの内側側頭葉に嗜銀顆粒が蓄積しますが,特に迂回回(ambient gyrus)に高頻度に蓄積し,側頭葉内側面前方部に強い萎縮がみられます。volumetryにおける海馬傍回の萎縮の程度が簡易知能検査(mini-mental state examination:MMSE)に比して高い傾向があり2),脳血流SPECT(single photon emission computed tomography)検査などの機能画像検査を施行すると左右差が認められることが多い3)とされています。
上記の知見から臨床診断できる可能性はありますが,現時点ではあくまでも確定診断は病理診断でないと難しいと考えます。また,高齢発症の場合,大抵はアミロイドβ,タウ,α-シヌクレイン,血管障害など様々な病理が合併した複合病理であり,さらに臨床診断を難しくしていると考えます。よって,臨床医としては,アルツハイマー型認知症などと少し臨床経過が異なるような高齢発症の認知症をみた場合,AGDの可能性も念頭に置きつつ,患者を診ていくのがよいでしょう。
【文献】
1) 日本神経学会, 監:認知症疾患診療ガイドライン2017. 「認知症疾患ガイドライン」作成委員会, 編. 医学書院, 2017, p297-8.
2) 足立 正, 他:Dementia Jpn. 2014:28(2):182-8.
3) Adachi T, et al:J Neuropathol Exp Neurol. 2010; 69(7):737-44.
【回答者】
内門大丈 湘南いなほクリニック院長