要約:医師の働き方改革を進める中で,医師の特殊性として,応召義務の存在が挙げられている。従来,医師は,きわめて例外的な場合を除き,患者の診療の求めを拒むことはできないと解されてきたが,旧厚生省の通達や裁判例を丁寧に分析していくと,必ずしも,医師に過重な義務を課しているわけではないことがわかる。応召義務について適切な解釈をして医師を過重な義務から解放しつつ,患者の生命・健康を守るという本来の責務を果たせるよう,働き方改革のあり方との調和を図ることが肝要である。
2018年7月9日,厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」は,2月16日の第7回会議から約4カ月ぶりに第8回会議を開催した。その間,働き方改革関連法が成立し,2024年3月31日まで猶予されるものの,医師に時間外労働の上限規制が適用されることが確定した。勤務医が労基法上の「労働者」であることについて違和感を抱く医療関係者は少なくないが,一部のごく例外的な存在の余地があったとしても,ほとんどの勤務医が労基法上の「労働者」であることは,法律上動かしようがない※1。
一方で,医師は応召義務を負っており,現在の医師の長時間労働の実態と相まって,一般的な時間外労働の上限規制をそのまま導入することについて問題が指摘されている。本稿では,医師の長時間労働の一因とされる応召義務について,その解釈や内容を改めて整理したい。
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