前稿(No.5246号)では、高齢者の就業支援機関であるルバー人材センターについて解説した。本稿では、シルバー人材センターにおける安全就業に関する調査結果を紹介する。
筆者らはフレイル状態と労働災害との関連を調べた。次に、シルバー人材センターが主催する安全就業についての研修の受講有無と関連要因についても検討した。
東京都の特別区内シルバー人材センター3施設および市部4施設の計7施設を選定し、2021年11月にアンケートを送付し回答に欠損のない7265人を分析対象にした。
労働災害について、2020年の1年間、転倒、高所からの転落、転倒以外の事故(衝突など)、物的損害などの労働災害を経験したかどうかを尋ねた。
労働災害の予防策については、研修やリーフレット配布などの活動を行うことは、安全就業のための代表的な方策であることから、「安全就業のための研修に参加していますか」「安全就業のチラシを読んでいますか」という質問をアンケートに盛り込んだ。前者の場合、4つの選択肢(毎回、ほぼ毎回、ときどき、まったく参加しない)があり、研修への参加は、常に(毎回、ほぼ毎回)参加することと定義した。後者の場合、3つの選択肢(知っており読んでいる、知っているが読まない、知らない)を提示した。
調査の結果は、ロバスト(=非フレイル)、プレフレイル、フレイルの有病率はそれぞれ26.3%、63.3%、10.4%であり、労働災害を報告した参加者は全体で9.4%であった。転倒が最も多く(5.8%)、ついで物的損害(2.9%)であった。研修への参加割合は、ロバストが27.1%、プレフレイルが22.4%、フレイルが18.1%であり、リーフレットを読んだことがある人の割合は、それぞれ77.4%、74.8%、69.8%であった。
ロバストと比較して、プレフレイル〔Prevalence raito(PR) 1.48(95%CI 1.20〜1.82)〕とフレイル〔PR 2.02(95%CI 1.56〜2.61)〕は、労働災害のPRが高いことがわかった。
研修への参加と安全な作業のためのリーフレットを読むこととの関連については、ロバストと比較して、プレフレイル〔PR 0.79(95%CI 0.72〜0.86)〕とフレイル〔PR 0.63(95%CI 0.53〜0.74)〕はワークショップにあまり参加しなかった。同様に、プレフレイル〔PR 0.95(95%CI 0.92〜0.98)〕とフレイル〔PR 0.88(95%CI 0.83〜0.93)〕はリーフレットを読まなかった。
この研究により、プレフレイル、フレイルはロバストと比較して、労働災害が多く、安全就業を学ぶ機会を利用していないという実態が明らかになった。今後は、プレフレイル、フレイルといったハイリスク層への安全就業の啓発のあり方について検討する必要がある。
藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所副所長)[高齢者就労][健康]