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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『NHKあさイチ、ワクチンと救済制度』」鈴木貞夫

No.5249 (2024年11月30日発行) P.63

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2024-11-08

最終更新日: 2024-11-08

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2024年8月28日、NHK総合のニュース番組「あさイチ」において「知っておきたい ワクチンと救済制度」が放送された。これは、新型コロナワクチンの「予防接種健康被害救済制度」を解説する番組であったが、この制度の説明が必ずしも適切ではなく、視聴者の誤解をまねきかねない内容であり、危惧を覚えた。この番組について、関連部分が文字起こしされているので、放送内容についてはそちらを参照した。

最も大きい問題点は、因果関係の判定をめぐる理解の齟齬であると考えている。番組中に川崎医科大学の中野貴司特任教授が「この制度は補償ではなく、ワクチン接種後に生じた健康被害に対して救済するための制度」という発言の通り、これは救済制度であり、因果関係を前提とした国や企業の責任問題や賠償に直結するものではない。しかし、番組内では、ワクチン接種後症状のことを何度も「副反応」と言っており、因果関係の根拠もなく、ワクチンを原因とする健康被害が起こっている印象を視聴者に強く与える結果になっている。重い副反応の例として「アナフィラキシー」と「心筋炎」が挙がっているが、アナフィラキシーが、機序からみてワクチン由来なのが確実視されるのに対し、機序が不明な心筋炎は因果関係があるのかどうかを市販後のリアルワールドデータを用いて判断するのは困難だ。

番組制作は、因果関係のエビデンスが疫学研究で得られるものであり、個々の症例を診断(または解剖)しても、因果関係の結論は得られないということを、きちんと理解した上でなされるべきである。中野特任教授は、「重い副反応というのは、自らの身に健康被害が起こったという許容できない事実で、頻度が稀であっても容認はしがたい」と述べている。だから救済が必要なのであって、因果関係はこの文脈に、他原因があるという除外で関わるのみで、肯定的に関わってはこない。ワクチン接種後症状をワクチンに帰するというメディアの番組制作方針が、HPVワクチンの接種率の激減にどのように関与してきたか、私たちはよく知っている。8年余にわたりHPVワクチン推奨を行えなかったこと、勧奨を再開しても接種率があまり上がらないことに対して、メディアはきちんと反省し、正しい情報の報道に努めるべきである。

この制度について、厚生労働省は説明文書を出している。「そのワクチンを接種した後に起こった症状は、ワクチンの接種が原因ではなく、偶然、ワクチンの接種と同時期にかかった感染症などが原因であることがあります」とする一方で、「予防接種健康被害救済制度ではワクチンの接種による健康被害であったかどうかを個別に審査し、ワクチンの接種による健康被害と認められた場合に給付をします」としている。個別に審査すれば、因果関係がわかるような記載がされており、ここでも混乱がみられる。救済制度認定者は因果関係が認められたという誤解の原因となりかねず、早急に正確な記述が求められる。

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[予防接種健康被害救済制度][因果関係]

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