No.4965 (2019年06月22日発行) P.8
登録日: 2019-06-24
情報通信技術の著しい進歩を受け、遠隔医療の一形態として2018年度診療報酬改定で保険導入された「オンライン診療」。現在は自由診療を含め、18年3月に策定された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づき運用されている。オンライン診療を取り巻く環境の変化の早さを踏まえ、指針は毎年改訂されることになっており、6月10日の厚生労働省検討会で新たな指針案がほぼ固まった。新指針でどのように運用が変わるのか、改訂のポイントを紹介する。
2019年度の指針では表のような見直しが行われる。重要なのは、2020年4月以降にオンライン診療を実施する医師に対して、厚労省が指定する研修を受講することが義務化される点。すでに実施している医師も10月までに研修を受講する必要がある。
見直しの議論で最も時間を費やしたのは、“初診原則対面診療”の例外規定の追加。最終的に、これまでの禁煙外来に加え、オンライン診療の特性を生かし新たに緊急避妊薬の処方を限定的に認めることとなった。近隣に受診可能な医療機関がないなど地理的要因がある場合や、自治体の相談窓口と連携している医師が女性の心理的な状態に鑑み対面診療が困難と判断した場合には、指定の研修を受けた医師であれば初診でもオンライン診療が可能になる。
このほか、離島やへき地など医療機関が少ない地域で代診が立てられず治療継続が困難な場合、条件付きで他の医療機関の医師がオンライン診療を行うことを認め、例外規定に追加する。
新たな診療形態としては、①D to P with N(患者が看護師といる場合)と②D to P with D(患者が医師といる場合)─の2つを定義する。①は、在宅患者の側に医師と連携する訪問看護師がいる場合に医師がオンライン診療を実施する形。訪問看護師は医師からの指示のもと、診療の補助行為を実施することが可能となる。D to P with Nによる補助行為を実施する場合、オンライン診療開始時に作成する「診療計画」と「訪問看護指示書」にその旨を記載する必要がある。
②は、高度な技術を有する医師が遠隔から情報通信機器を用いて手術や診察・診断を行う形。例えばロボット支援手術で、難しい部分は遠隔地のスキルの高い医師、それ以外は主治医が分担して行うケースなどが想定される。
政府の「未来投資会議」などでの方針を受け、2018年度改定の目玉として保険導入されたオンライン診療だが、普及は進んでいない状況だ。厚労省の2018年度改定検証調査によれば、新設された「オンライン診療料」の届出施設のうち実施しているのは約16%にとどまる。主な要因は①対象疾患を糖尿病や高血圧、慢性胃炎、気管支喘息などに限定、②初診から6カ月以上の対面診療が必要─といった厳しい算定要件にある。
オンライン診療アプリ「curon」を提供しているMICINが19年3月、約1100の導入施設に実施した利用実態調査では、オンライン診療を自由診療として実施するケースが54%と半数を超え、保険診療の46%を上回っていることが分かった。2018年度改定以前は「電話等再診」を算定し、保険診療として実施される割合が8割以上だったが、アトピー性皮膚炎やスギ花粉症、不眠症、片頭痛などオンライン診療と親和性の高い慢性疾患が対象から外れたことで、保険診療の利用が伸び悩んでいるようだ。
12日には中央社会保険医療協議会で次期改定に向けたオンライン診療を巡る議論が始まった。論点の1つとなるのは、就労者など現役世代に利用しやすくするための要件緩和の是非だが、診療側は利便性を重視した要件緩和に否定的な構えを崩していない。
オンライン診療は、厚労省保険局医療課長(当時)として2018年度改定を担当した迫井正深審議官が指摘するように「内科学の教科書を塗り替えるほどの基本的な診療技術」であり、強力な通院支援ツールになり得る。2020年度の次期改定に向けた議論も難航が予想されるが、「対面診療を補完するもの」という大前提は守りつつ、医療機関と患者の双方にメリットのあるような見直しが行われることを期待したい。
指針は医師法20条に抵触せずにオンライン診療を行うためのガイドラインで、「やってはいけないこと」を明確にすることに主な目的が置かれています。新指針はまだ確定していませんが、締めるところは締めながらも全体的には緩和している印象です。
これまで不適切事例としては大きく「初診からの積極的な薬剤処方」と「非医師によるなりすまし診療」という2つのパターンが挙げられてきました。改訂ではこれらの不適切利用を抑制するために一部規制が強くなるでしょう。しかしそれ以外では、同一医師の原則や新規病状への対応といった、臨床現場からすると不可解な制限に関しては緩和の方向性が示されています。
指針の改訂よりもオンライン診療に大きな影響を及ぼす制度変更は次期診療報酬改定です。“同一医師縛り”や対象疾患の制限、30分以内の緊急時対応など指針と比較してとても厳しい算定要件が定められています。実際に保険診療でオンライン診療を行う際には、指針の規制が問題になることはなく、算定要件がハードルとなることがほとんどです。
これには、前回改定に向け議論を行っていた時期(2017年秋ごろ)にはまだ指針がなかったため、適切にオンライン診療が運用されるための規制を算定要件に詰め込まざるを得なかったという背景があります。本来であれば普遍的なオンライン診療の指針に基づいて算定要件が議論されるべきですが、指針が存在しなかったことから過度に厳しい要件がついてしまったと言えます。
前回改定を巡る中医協の議論では、オンライン診療の実情理解が乏しいまま空中戦の議論が行われた印象です。次期改定に向けては、実績やデータ、そして指針に基づく「地に足がついた」オンライン診療の議論が行われ、適切な推進につながる要件が定められることを期待したいですね。