アルツハイマー型認知症は,老年期の認知症の中で最も頻度の高い疾患である。臨床的には緩徐進行性の物忘れをはじめとした認知機能障害と,それによる日常生活の自立の障害を特徴とする。経過中,易怒性などの認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)がみられることもある。
認知症の診断には,一貫した認知機能障害や日常生活の自立の障害といった客観的な情報を家族等から得ることが不可欠である。その上で,短期記憶障害が前景に立つ場合,本疾患を疑う。検査としては,認知機能障害の程度の評価や障害されている認知ドメインの評価のため,Mini-Mental State Examination(MMSE)や長谷川式認知症スケールなど簡易認知機能検査が有用である。また,頭部CTやMRIにおける内側側頭葉の萎縮,脳血流SPECTにおける側頭・頭頂葉や後部帯状回~楔前部の血流低下は,診断に有用な所見である。ただし,特に超高齢者になると,類似した症状を呈する他疾患の頻度が高くなることに留意が必要である。
現時点では,分子病態に作用して病態の進行を抑制する薬はなく,対症療法としてコリンエステラーゼ阻害薬3種とN-methyl-d-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬1種が認可されている。
コリンエステラーゼ阻害薬は,主に軽度〜中等度の本疾患に対して認知機能と全般機能の改善効果が示されており,本疾患の診断となった場合の第一選択である。ただし,改善の程度は,家族からみて日常生活での物忘れの程度が良くなったというほど大きなものではなく,意欲の低下の改善に気づくという程度のものである。副作用としては嘔気・嘔吐,下痢の頻度が高く,開始時は漸増する必要がある。開始時や用量増量時に副作用が出現した場合には中止し,コリンエステラーゼ阻害薬の中で貼付薬のリバスチグミンに変更を試みることがある。また,開始後に興奮性や易怒性が増すことがあり,その場合は使用を中止せざるをえないことが多い。
NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンは,中等度~重度の本疾患に対して認知機能と全般機能の改善効果が示されている。BPSDがみられる場合,コリンエステラーゼ阻害薬に加えてメマンチンを追加する。メマンチンは副作用として眠気が出現することがあるため,夕食後の内服を指示することがある。また,メマンチンは4週間ごとに漸増して用い,維持量は20 mgだが,眠気がみられた場合は減量し,有効性があれば10~15mgを維持量とすることもある。そのほか,BPSDの改善を目的として,5~7.5mg/日を用いることもある。メマンチンや抑肝散エキスでコントロール不良のBPSDに対しては,非定型抗精神病薬が必要になることがあるが,その前に非薬物療法を優先して行うのが原則であり,早めに専門医(特に精神科医)に相談するのが望ましい。
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