この2年半、リビングウイルの意義を巡る行政訴訟に関わってきた。リビングウイルとは「人生の最終段階の医療において延命処置に関する本人の希望を表した文書」である。「いのちの遺言状」とも訳されている。1976年(昭和51年)に日本に入ってきたもので現在、約3%の国民が書いていると推計されている。リビングウイルを尊重して、話し合いを経て延命治療を差し控えるとともに、十分な緩和ケアを提供した結果の穏やかな最期を「尊厳死・平穏死」と呼んでいる。尊厳死や平穏死は安楽死とよく混同されるが両者は違うものだ。前者は自然死であり、後者は医師が薬剤で人為的に死期を早める行為で区別すべきだ。
43年間リビングウイルの普及啓発活動を行ってきた一般財団法人日本尊厳死協会は国(内閣府)に公益認定を申請したが2度にわたり却下された。公益認定の要件はすべて満たしているにも関わらず不認定とされた理由は1点だけであった。その理由とは「患者がリビングウイルを書くと医師の訴訟リスクが高まるから」である。信じ難い認識であるが、それが我が国の公式見解であった。
そこで「リビングウイルがあると果たして医師の訴訟リスクが本当に高まるのか、そうではないのか」を問う行政訴訟を日本尊厳死協会が起こした。2019年2月、東京地裁は私たちの主張を認め国は敗訴した。しかし国は、控訴期限である2週間後に控訴。10月30日に東京高裁で二審判決が言い渡された。一審判決を全面支持するだけでなく、今後本人意思が不明な人が増える中、リビングウイルの重要性を説くなどかなり踏み込んだ判決文書であった。リビングウイルの意義を巡る議論は2年半に及ぶ法廷闘争を経て決着した。
以上、リビングウイルの意義を問う裁判だったので「リビングウイル裁判」と命名した。