最近、認知症と診断を受けた当事者からの情報発信が注目されています。2019年12月、各地で聖火ランナーが発表され、柿下秋男さん、丹野智文さん、藤田和子さんが、聖火ランナーに選ばれました。三人は認知症当事者であり、2020年1月には厚生労働省から認知症への関心と理解を深めるための普及・啓発を行う「希望大使」にも任命されました。また彼らは、日本認知症本人ワーキンググループ(http://www.jdwg.org/)のメンバーです。彼らは認知症と診断された際の絶望から立ち直り当事者活動を行っていますが、これから認知症と診断される私たちに向けて診断時の絶望を和らげようと、「認知症とともに生きる希望宣言」を表明しています。
改訂長谷川式簡易知能評価スケールを作られた長谷川和夫先生も自らが嗜銀顆粒性認知症と診断されたことを公表されています。2020年1月に放送されたNHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」の中で長谷川先生は、ご自身が制度作りに関わり多くの患者にも勧めてきたデイサービスに自分も通所する身となった感想として「少なくとも介護している家族の負担を減らすのにいいだろうと素朴な考えしか持っていなかった」「あそこに行ってもひとりぼっちだ」と述べて通所を拒否するようになり、「何がしたいですか? 何がしたくないですか? から出発してもらいたい」とおっしゃっていました。番組の冒頭では、「認知症になってみて、本当の認知症の姿が見え、わかる」とも話されていました。
2025年には認知症の状態になる人が700万人を超え、その後もしばらく人数は増え続けると推計されているなかで、医療者にとって認知症は避けて通れない重要課題となっています。認知症を最もよく知る認知症の専門家は、認知症の当事者です。この記事をお読みいただいている先生方にも、認知症の人たち、患者さんたちの声に耳を傾けていただきたいと思います。
内田直樹(たろうクリニック院長)[認知症]