No.5000 (2020年02月22日発行) P.58
楠 隆 (滋賀県立小児保健医療センター小児科主任部長兼診療局長、京都大学医学部臨床教授)
登録日: 2020-02-20
アレルギー疾患の増加が叫ばれています。最近では特に食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、花粉症、花粉食物アレルギー症候群(PFAS)などの増加が指摘されています。アレルギー疾患の発症機序には遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合っていることはご存じの通りですが、遺伝的要因がこの数十年で急に変化したとは考えにくく、増加の主な要因は環境の変化であると考えられています。最近の総説でPedenは、大気汚染、細菌との曝露、社会的ストレスなどの環境要因を“envirome”と総称し、これら非アレルギー的な要因に生後早期から曝露されることがアレルギー疾患の重要な修飾因子となっていることを過去5年間の論文を基に考察しています1)。またBunyavanichらは、食物アレルギーの発症に特に生後早期からの腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が関与していることを指摘し、食事、プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、さらに腸内細菌移植などによる食物アレルギーへの治療介入の試みを紹介しています2)。マウス実験では腸内細菌の構成が制御性T細胞の誘導を通じて食物アレルゲン耐性機序に関わっていることもわかってきました。
これらの総説から伝わってくるメッセージとして、①アレルギー疾患を予防するためには環境要因や食習慣の関与に注目すること、②生後なるべく早期から介入すること─の2点が重要であるということだと思います。これからの1年間、このような視点を意識しつつ、アレルギーに関する最新の話題を毎月1回紹介したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【文献】
1) Peden DB:Ann Allergy Asthma Immunol. 2019;123:542-9.
2) Bunyavanich S, et al:J Allergy Clin Immunol. 2019;144:1468-77.
楠 隆(滋賀県立小児保健医療センター小児科主任部長兼診療局長、京都大学医学部臨床教授)[アレルギー]