No.5002 (2020年03月07日発行) P.63
倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)
登録日: 2020-03-02
最終更新日: 2020-03-02
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が国内で発症し始めたあたりから、街からマスクが消えた。一部のパニックになった人たちが、買い占めに動いてしまったためだ。当院は、在庫があまり残っていない状態だったため、窮地に立たされてしまった。
オイルショックが思い浮かぶ。1973年、原油高騰により当時の中曽根康弘通商産業大臣が紙の節約について呼びかけたことにより、トイレットペーパーがなくなるかもしれない、とパニックに陥る現象が起こった。当時はSNSなどなかったから、それがデマであるという情報が浸透するまでに時間がかかってしまった。
こんなバカみたいな騒動は、令和時代の現代では起こらないだろうと思っていた。しかし、今回COVID-19発生時にマスク買い占めが起こった。マスクは一般の人たちが外を歩く上で感染を予防する疫学的エビデンスはないのだが、あたかも毎日使用するのが当然であるかのように、全員がマスクに殺到してしまった。これを助長したのはSNSだと思う。そして、マスク増産によってトイレットペーパーの原材料が不足するというデマまで流れた。主婦の間でLINEやTwitterを媒体にして、瞬く間にデマ情報が拡散されていった。これにより、オイルショックの再来とも言える、トイレットペーパーの買い占めがふたたび起こったのだ。冷静に考えればマスクの原材料とトイレットペーパーの原材料はまったく別なのだが、そのような情報の正しさを確かめることなくパニックに走ってしまうのは、むしろ現代のSNSの情報量が豊富すぎるからなのかもしれない。
倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS]