社会保障とは、国民が健やかで安心できる生活の保障を公的費用で支えることを言う。具体的には「医療、年金、介護、福祉」であり、医療・介護の自己負担分以外の給付額や年金の受給額など、社会保障制度によって国や地方公共団体から国民に給付される金銭・サービスの年間合計額とされている。
日本の社会保障制度は社会保険料で費用を負担することを原則としている。しかし、少子高齢化による負担増に伴い、働く世代に負担が集中し始め、国民全体が受益する社会保障費をあらゆる世代が公平に分かち合う必要性が出てきた。その結果、社会保障の安定した財源を確保するために、税収が景気の変化に左右されにくく安定している消費税を財源とする政策が社会保障・税一体改革により決まった。消費税率引上げによる増収分を含む消費税収(国・地方、消費税率1%分の地方消費税収を除く)は、全て社会保障財源に充てるとしたが、社会保障4経費の合計額には足りない。
社会保障の中核を成すものは1961年に始まった国民皆保険、皆年金制度であるが、当時とは社会全体が大きく変化し、政府が人生100年時代を謳う高齢化社会と成った。しかし、国民皆保険、皆年金制度は死守すべきである。
費用額の大きい双肩は医療と年金であるが、医療費は当然高齢者医療、高額医療の増大が問題であり、いずれにしても費用軽減策は「疾病予防と治療」の適宜効率化に尽きる。
年金については在職老齢年金制度の見直しが必須である。高齢者の就労を促す現政権の方針と矛盾している働き損制度は収入の公平を欠き、続く年金受け取り世代にも心理的影響は及ぶ。また、基礎年金、基礎的消費支出の乖離が拡大し、実に1万1674円も「不足」している。基礎年金の最低保障機能は高齢者の生活の安心の為に堅持すべきである。
介護保険は今後大きな変革が必要とされる。介護保険料の大幅負担増は年金世代ではなく現役世代にのしかかる負担なので、消費税引き上げと重なり、生活防衛が広まると想像される。また、ホームヘルパー不足は介護保険制度の根幹を崩す可能性がある。
政府は社会保障費が急増する団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年の「超・超高齢社会」への対処が最重要課題であるが、安易に再度消費税を引き上げるべきではない。金銭的貧困を精神的貧者にさせない社会構造の再構築が求められている。
相原忠彦(愛媛県医師会常任理事)[社会保障制度]