食生活への介入はアレルギー疾患を予防するための重要な戦略である、との想定のもとに様々な疫学研究や介入試験が行われています。なかでもビタミンDはアレルギーへの関与が最も検討されている栄養素の一つといってよいでしょう。ビタミンDはもともとカルシウムや骨代謝への作用が知られていましたが、最近では免疫調節作用や腸管粘膜バリアー構築作用、腸管感染予防効果などがわかってきており、ビタミンD不足によってそれらが破たんすることがアレルギー発症の少なくとも一因ではないかと考えられるようになりました。そして、妊娠中や乳児期早期からビタミンD不足を予防することが、アレルギー発症抑制につながることが期待されるようになりました 。しかし一方で、臨床的観察や介入研究ではビタミンDのアレルギー予防効果を認めるもの、認めないもの、さらには逆の効果を認めるものなど様々な報告があり、その評価は定まっていません。
このような背景の中で、この度New England Journal of Medicine誌にその評価に対して重要な示唆を与える研究結果が報告されました1)。この論文の著者らは以前に妊娠中の母への高用量(4400IU)ビタミンD補充が3歳までの喘息や繰り返す喘鳴を予防する効果があると報告していました。ところが今回の報告で対象者を6歳まで追跡したところ、残念ながらその予防効果は見られなくなりました。本研究は十分に練られた研究計画のもとで適切に施行されており、得られた結果自体は信頼のおけるものと考えられます。今回の結果から、妊娠中の高用量ビタミンD補充は幼児期のウイルス気道感染に伴う喘息様症状を抑制する効果はあるが、その後のアレルギー性喘息を予防する効果は期待できないことが示唆されます。ただ、母体の元々のビタミンDレベルがどうであったのか、出生後の児自身へのビタミンD補充を併用すればどうであったのか、などまだまだ検討すべき課題が残されており、今後の研究の進展が期待されます。
【文献】
1) Litonjua AA, et al:N Engl J Med. 2020;382(6):525-33.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[アレルギー]