著: | 橋本博史(順天堂大学名誉教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 454頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2025年03月05日 |
ISBN: | 978-4-7849-5415-5 |
版数: | 第4版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
8年ぶりの改訂! SLE臨床の“今”を網羅した決定版
●SLE診療の第一人者が,豊富な自験例をもとに臨床の指針を提示。
●Dubois'は読むのがつらい……そんな方にもおすすめです。SLEの診断や病態把握,治療法の選択,予後の予測,合併症への対応を,実臨床に即しわかりやすく解説しました。
●第4版では「治療」の項目を大幅アップデート。生物学的製剤の最新情報を追加し,薬剤の現況や管理の最新トピックも完全網羅!
●ガイドラインの改訂やCOVID-19パンデミックの影響を反映。旧版以降の最新文献をもとに解説を一新しました。進化するSLE臨床の“今”がここにあります。
Ⅰ章 概念・疫学
1.SLEの概念とその変遷
1.SLEの歴史
2.抗核抗体の発見と自己免疫
3.診断基準の変遷
4.治療の変遷
5.SLEのモデル動物
6.現在におけるSLEの疾患概念
2.SLE の疫学
1.推定患者数, 有病率
2.男女比, 診断時年齢
3.背景因子
4.初発症状
5.臨床症状・検査所見
6.予後・死因
1)自験例の成績
2)最近の動向
Ⅱ章 病 因
1.遺伝的要因
1.家族集積性
2.性染色体/性ホルモン
3.疾患感受性遺伝子
1) 主として候補遺伝子アプローチに基づいて見出された疾患感受性候補遺伝子
2)ゲノムワイド解析の成果と課題
3)単一遺伝子疾患の様式でSLE発症の原因となるバリアント
4)SLE感受性遺伝子が集積する分子パスウェイ
5)疾患感受性遺伝子から推測されるSLE発症機構
6)ポリジェニックリスクスコア(PRS)
7)SLEのゲノム解析における今後の展望
2.環境因子
3.SLEのエピゲノム機序
1.DNA脱メチル化
2.ヒストン修飾の異常
3.非コードRNA(ncRNA)
4.免疫応答と調節機構の異常
1.免疫寛容(トレランス)の破綻
2.抗原の由来
3.抗原供給に伴う免疫応答細胞と可溶性メディエーター
4.T細胞異常
1)Th1細胞
2)Th2細胞
3) Th17細胞/DN T細胞
4)制御性T(Treg)細胞
5)組織常在型メモリーT(Trm)細胞
6)濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞
7)末梢性ヘルパーT(Tph)細胞
5.B細胞異常
6.免疫異常に対する治療戦略
5.組織障害機序
1.皮膚
2.ループス腎炎
3.中枢神経性(CNS)ループス
6.病理組織学的所見
1.皮膚
2.腎
3.心
4.血管
5.肺
6.網内系
Ⅲ章 検査所見
1.一般検査所見
1.血液学的検査
2.尿検査
3.便検査
4.生理学的検査
5.画像検査
2.免疫血清学的検査所見
1.抗核抗体
1)蛍光抗体間接法による抗核抗体
2)抗DNA抗体
3)LE因子または抗DNA: ヒストン抗体
4)抗非ヒストン核蛋白抗体
5)抗核小体抗体
6)抗セントロメア抗体
2.抗リン脂質抗体
3.その他の自己抗体
4.免疫複合体
5.血清補体価
6.細胞性免疫検査
3.生検による病理組織学的検査
Ⅳ章 診 断
1.診断の進め方
1.初発症状と病歴聴取のポイント
1)主訴,初発症状からSLEを疑う
2)既往歴
3)家族歴
4)社会歴,生活歴など
2.診断に重要な臨床症状
1)発熱
2)皮膚症状
3)関節・筋症状
4)腎臓の障害
5)中枢神経障害
6)心臓・肺障害
7)消化器の障害
8)その他の症状
3.検査の組み立て方
2.診断・分類基準
3.鑑別診断
4.SLEの近縁疾患とその鑑別
1.関節リウマチ(RA)
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断,鑑別診断
2.全身性強皮症(SSc)
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断,鑑別診断
3.多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断,鑑別診断
4.シェーグレン症候群(SjS)
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断
5.IgG4関連疾患(IgG4-RD)
6.混合性結合組織病(MCTD)と重複症候群(overlapping syndrome),鑑別不能の結合組織疾患(UCTD)
1)MCTDとは,重複症候群とは,UCTDとは
2)MCTDの臨床的特徴
3)MCTDの診断,鑑別診断
7.血管炎症候群
1)結節性多発動脈炎(PN)
2)顕微鏡的多発血管炎(MPA)
3)多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
4) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA,C-S)
5)巨細胞性動脈炎
6) 高安動脈炎(大動脈炎症候群)(Takayasu’s arteritis)
8.薬剤誘発ループス
9.抗リン脂質抗体症候群
10.成人(発症)スチル病
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断,鑑別疾患
11.ベーチェット病
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断,鑑別疾患
12.リウマチ性多発筋痛症(PMR)
1)概念
2)臨床的特徴
3)診断,鑑別疾患
13.自己炎症性疾患
14.脊椎関節炎(SpA)
1)体軸性脊椎関節炎(axial SpA)
2)乾癬性関節炎
3)反応性関節炎
4)炎症性腸疾患に伴うSpA
15.結合織炎,線維筋痛症(fibrositis,fibromyalgia syndrome)
Ⅴ章 病型分類,亜型
1.病型分類
1.皮疹による分類
2.経過による分類
3.加齢による分類
4.自己抗体,免疫異常による分類
5.ループス腎炎の組織学的病型分類
6.重症度・予後からみた病型分類
1)軽症SLE
2)中等症と重症SLE
2.亜 型
1.Pre-SLE
2.薬剤誘発ループス
3.円板状エリテマトーデス(DLE)
4.亜急性皮膚型LE(SCLE)
5.新生児ループス
6.補体欠損に伴うSLE様症候群
7.抗核抗体陰性SLE
8.抗リン脂質抗体症候群(APS)
Ⅵ章 治 療
1.治療目標と治療方針
2.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
1.作用機序
2.NSAIDsの種類と選択の仕方
3.適用
4.副作用
3.副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)
1.ステロイド薬の抗炎症作用機序
2.ステロイド薬の種類
3.投与方法
4.適用病態
5.用法・用量
6.妊娠合併SLE患者におけるステロイド治療
7.ステロイド薬が不応性の場合の要因
8.ステロイド薬の吸収・代謝と他剤相互作用
9.副作用とその対策
1)感染症
2)糖尿病・耐糖能異常
3)消化性潰瘍
4)骨粗鬆症・圧迫骨折
5)精神症状(ステロイド精神病)
6)副腎皮質機能不全
7)その他
4.免疫調整薬
1.ヒドロキシクロロキン硫酸塩(HCQ)
1)クロロキンとは
2)薬理作用・薬物動態
3)適応・効果
4)投与量
5)副作用
6)投与中モニタリング
7)妊娠・授乳
2.抗リウマチ薬として用いられる免疫調整薬
5.免疫抑制薬
1.SLEにおける免疫抑制薬の位置づけ
2.SLEに用いられる免疫抑制薬とその作用機序
1)代謝拮抗薬
2)アルキル化薬
3)葉酸拮抗薬
4)細胞内シグナル伝達阻害薬
5)JAK阻害薬
3.適応
4.投与法
5.使用上の留意点
6.生物学的製剤
1.TNF阻害薬,IL-6阻害薬,共刺激分子阻害薬
2.B細胞を標的とする治療薬
1)リツキシマブ
2)ベリムマブ
3.Ⅰ型IFNα阻害薬(アニフロルマブ)
7.アフェレーシス療法
1.原理と歴史
2.施行方法
1)血漿交換療法(PE)
2)血球成分除去療法(CAP)
3.生物学的意義
1)血漿交換療法(PE)
2)血球成分除去療法(CAP)
4.適応疾患・病態
1)血漿交換療法(PE)
2)血球成分除去療法(CAP)
5.臨床的効果
6.施行上の注意点
8.ガンマグロブリン療法
9.治療の変貌と今後の治療
1.治療の変貌
2.今後の治療
1)形質細胞を標的とする治療薬
2)B細胞を標的とする治療薬
3)T細胞を標的とする治療薬
4)サイトカイン阻害薬・TLR阻害薬
5)造血幹細胞移植
Ⅶ章 臨床病態と治療・管理
1.皮膚病変
1.急性皮膚型LE(ACLE)
2.亜急性皮膚型LE(SCLE)
3.慢性皮膚型LE(CCLE)
4.新生児ループス
5.bullous LE
6.口腔内粘膜潰瘍
7.日光過敏症
8.蕁麻疹様皮疹
9.皮膚血管炎
10.脱毛
11.レイノー現象,末梢循環障害,凍瘡様皮疹
12.その他
2.骨・関節・筋症状
1.関節症状
2.筋症状
3.治療
3.腎症(ループス腎炎)
1.ループス腎炎の特徴
2.ループス腎炎の病態評価
1)臨床的評価
2)組織学的指標
3)血清学的指標
3.病型別治療法と治療手段
1)ステロイド薬
2)免疫抑制薬
3)生物学的製剤
4)アフェレーシス療法(血漿交換療法)
5)抗凝固療法
6)血液透析,その他
4.主な病態における治療の実際
5.最近の動向
4.精神神経症状
1.自験例の検討
1)病態とその頻度
2)精神症状
3)神経症状
2.病態診断
1)SLEの他の症状との相関
2)検査所見
3)重症度の評価
3.新しいSLEの精神神経症状分類
[A]中枢神経系 ─ a.神経症状
1)無菌性髄膜炎
2)脳血管障害
3)脱髄性症候群
4)頭痛
5)運動障害(舞踏病)
6)脊髄障害
7)痙攣発作および発作性疾患
[A]中枢神経系 ─ b.びまん性精神的/精神神経症候
1)急性昏迷状態
2)不安障害
3)認知障害
4)気分障害
5)精神病性症状
[B]末梢神経系
1)急性炎症性脱髄性多発神経根神経炎,ギラン・バレー症候群
2)自律神経障害
3)単神経炎,単発/多発
4)重症筋無力症
5)脳神経障害
6)神経叢炎
7)多発性神経炎
4.治療
5.心病変
1.心囊炎
2.心筋炎
3.心内膜炎
4.心筋梗塞,冠動脈病変
5.血管病変
6.肺病変
1.胸膜病変
2.肺臓炎・間質性肺炎
1)急性ループス肺臓炎
2)慢性間質性肺炎
3)肺胞出血
3.肺血管病変
1)肺高血圧症
2)肺血栓・塞栓症
4.横隔膜病変
5.その他
7.消化器病変
1.消化管障害
2.腹膜炎・腹水
3.腸管の血管炎
4.非血管炎による腸梗塞
5.炎症性腸疾患
6.蛋白漏出性胃腸症・吸収障害
7.膵炎
8.肝障害
9.食道障害
8.血液学的病変
1.貧血
1)炎症に伴う貧血
2)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
3)鉄欠乏性貧血
4)その他
2.白血球減少
1)顆粒球減少
2)リンパ球減少
3.血小板減少
1)血小板減少症/血小板減少性紫斑病(TP)
2)血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
4.抗リン脂質抗体症候群(APS)
1)定義
2)aPLの生物学的特性
3)aPLの分類
4)臨床症状
5)診断基準
6)治療
5.血球貪食症候群(HPS)
9.内分泌系障害,膀胱障害
1.甲状腺疾患
2.1型糖尿病
3.副腎不全
4.副甲状腺疾患
5.高プロラクチン血症
6.膀胱障害
10.合併症
1.感染症
2.糖尿病
3.消化性潰瘍
4.骨粗鬆症・圧迫骨折
5.無菌性骨壊死
6.動脈硬化,心筋梗塞,冠動脈病変
7.悪性腫瘍
11.妊娠・出産
1.妊娠・出産の容認
2.妊娠がSLEに及ぼす影響
3.胎児へ及ぼす影響
1)児の転帰・予後
2)抗リン脂質抗体(aPL)による習慣流産
3)新生児ループス
4.妊娠・出産の治療・管理
1)妊娠中の治療・管理
2)分娩時,分娩後の留意点と治療・管理
Ⅷ章 臨床評価/日常生活指導
1.臨床評価
1.活動性指標
1)日本における活動性判定基準
2)欧米における活動性判定基準
2.傷害度指標
3.寛解基準と再燃
4.健康度指標(QOL評価)
2.日常生活指導
1.安静
2.食事
3.薬
4.歯の治療・外科的手術
5.予防接種
6.紫外線・日光照射
7.戸外スポーツ・レクリエーション
8.家事
9.鍼・灸
10.結婚
11.妊娠・出産
12.避妊
13.指定難病の医療費の助成
索 引
第4版 序文
本書の初版刊行は2006年,筆者の大学退職時である。恩師である故・塩川優一先生(順天堂大学名誉教授)の勧めでSLEをライフワークとし,35年の間に経験した1125症例をまとめた。
このたび第3版から8年ぶりに改訂を行い,第4版発刊の運びとなった。これまでの臨床経験をもとに温故知新を探りつつ,SLEを取り巻く最新情報の網羅に努めた。第3版出版以降,いくつかの新しい生物学的製剤が使用可能となり,それに伴い脱ステロイド薬の風潮があり治療の章を大幅に改訂させて頂いた。
ステロイド薬(グルココルチコイド)は半世紀にわたりSLEの救命的薬剤として用いられ,生命予後の著しい改善をもたらした。その背景には,これまでの診断技術の進歩と治療法の発達により,早期に診断され治療されるようになったことがあると考えられる。
診断基準については,1971年のARA(アメリカリウマチ協会)によるSLE分類予備基準から改変を重ね,2019年にはEULAR/ACRより感度と特異度が共に高いSLEの分類基準が提唱された。そして2024年度より厚労省指定難病の診断基準にも採用されている。
治療の面ではステロイド薬に加え免疫調節薬や免疫抑制薬を含む伝統的な治療法と相まって,寛解導入と予後改善に寄与したと思われる。
ステロイド薬は,活動性の重篤な臓器病変に対して欠かすことのできない薬剤である。しかし,生活の質の向上を重視する観点から,ステロイド薬の功罪の罪を最小限に抑える手法が勧められるようになった。最近では病態の解明とともに新たにリツキシマブ,ベリムマブ,アニフロルマブなどの分子標的治療薬が加わり,T2Tの概念のもと寛解をめざす治療法の検討が積極的に進められている。現在,多くの分子標的治療薬を含む生物学的製剤の導入が検討されつつあり,個別化医療への期待も高まっている。
一方で,多臓器病変を伴い再燃を繰り返す患者さんにとっては最適で最良の治療管理が望まれ,多分野にわたる専門領域の協力を必要としている。
また,SLEの生命予後の改善に伴い加齢に伴う心身への影響も考慮する必要があり,全人的医療が求められる。
SLEの診断や鑑別,病態把握,治療法の選択,合併症への対応とその対策など,必要に応じて本書を活用して頂ければ幸いである。膠原病の医療に携わっているメディカルスタッフの皆様にも医療の質と安全性を維持すべく活用して頂ければ幸いである。
前版同様,浅学菲才のため網羅できなかった点も多々あると思われるが,忌憚のないご批判,ご叱正を頂ければ幸いである。