No.5012 (2020年05月16日発行) P.68
杉浦敏之 (杉浦医院理事長)
登録日: 2020-05-13
最終更新日: 2020-05-12
由井1)は、ACP(advance care planning)の実施には恩恵もある一方、限界や問題点があることを指摘している。
限界の第1は、ACPは医療行為という、専門性が高く不確実性を伴う事項を扱う点である。あきらめ半分で行った治療が奏効し、患者が元気になることを経験された方は多いと思う。また、反対にまだ予後が期待できると思った矢先に亡くなられてしまうこともまた経験するところである。
第2は、事前に患者の価値観、目標、好みを治療に反映させるためにある程度治療方針を決定しておく必要があるが、これらは、本人の状況や周囲からの情報によって容易に変化してしまうことである。また、いきなり「あなたの人生の目標は何ですか?」と質問されて即答できる人は、自分も含めて少ないのではないかと思われる。その話し合いに医療者が同席しなければならないとなると、とてもその時間を確保することが難しい。そこで、実際には患者の自己決定権を保証しながら、意識的、無意識的に医療者による選択肢の誘導が行われてしまっている事態が多くなってしまう。
第3は、もし患者の状況が悪化した時に唐突にACPを持ち出してしまうと、患者との関係に悪影響が生じることがあり得ること、またACPが開かれることになっても、そこで本人の本音が十分に語られ、かつ家族や医療者に理解し、受け入れられるか、また事前に積極的な延命治療を差し控える選択をした後に、本人や家族が延命治療を望むと翻意した時に、医療者はそれを受け入れることができるか、を挙げている。
これらの問題点の解決は容易ではないが、第1、2に関しては、完璧を期すことは不可能といってよく、「結果オーライ」と考えざるを得ない場合がほとんどではないであろうか。第3に関しては、いわゆるbad newsを上手に伝えるスキルを学んでおく必要があるだろう。筆者の考える「適切なACP」は、結局のところ、ご本人が亡くなった後に、残された家族などの関係者が満足できる(あるいはした気になる)ものでないかと考えている。
【文献】
1) 由井和也:在宅新療0-100. 2019;4(12):1151.
杉浦敏之(杉浦医院理事長)[人生の最終段階における医療③]