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【識者の眼】「脳脊髄液減少症と脳脊髄液漏出症の経緯」相原忠彦

No.5017 (2020年06月20日発行) P.62

相原忠彦 (愛媛県医師会常任理事)

登録日: 2020-06-01

最終更新日: 2020-06-01

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交通事故のいわゆるむち打ち症の軽傷例に、頑固な頭痛、頚部痛、めまい等の様々な訴えが長期継続残存する難治性患者が存在する事実がある。担当医師にとっては診断名すら確定出来ず、外傷性頚部症候群として一括りにされることが多い。

1938年に海外で脳脊髄液圧低下による起立性頭痛の報告があり、1991年米国でMokriがMRIによるガドリニウム造影所見を発表して以来、硬膜画像所見と起立による症状増悪、低髄液圧を加えた3徴候が診断基準となった。

日本では篠永医師等が交通事故により低髄液圧症候群が生じることを報告し、その後、低髄液圧がなくても、低髄液圧症と同じような症状が出現するとして、2003年に脳脊髄液減少症の傷病名を提唱した。

それを契機に国内で竹下医師を始め研究が進み、以下の新たな診断基準が公表された。2007年脳脊髄液減少症ガイドライン、2010年日本(脳)神経外傷学会基準、2011年厚生労働省研究班中間報告。そして2019年には脳脊髄液漏出症診療指針が関連8学会(日本脊髄障害医学会、日本脊椎脊髄病学会、日本脊髄外科学会、日本脳神経外傷学会、日本頭痛学会、日本神経学会、日本整形外科学会、日本脳神経外科学会)の合同として発表され、脳脊髄液の漏出が明らかな場合の治療指針となった。

厚労省は2012年に先進医療として、2016年には保険診療として硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)を認めた。文部科学省は学校に、国土交通省は日本損害保険協会に脳脊髄液漏出症診療指針の活用を通知し、適切な対応を求めた。しかし、上記診断基準で疑い判定や非定型例に対してはブラッドパッチの適応は無い。

今後、国内外でさらに「脳脊髄液循環」の研究が進み、同様難治患者の治療方法が確立することを願っている。

相原忠彦(愛媛県医師会常任理事)[交通事故後の難治性患者]

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