No.5024 (2020年08月08日発行) P.56
岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
登録日: 2020-07-28
最終更新日: 2020-07-28
リモートワーク、在宅勤務が進まない。相変わらず満員電車が形成される。
「なぜなんでしょう」は、某新聞記者から受けた取材。Zoomのリモート取材だ。僕はオフィスにいて一人。相手もオフィスにいて、後ろを別の記者たちが闊歩している。
「なぜもなにも……あなた、今、新聞社にいるでしょう。リモート取材なら自宅にいたってできるはず。なぜ、出社されたんですか」
「いや……言われてみれば」
リモートワークができないのは……いや、できないのではない。やらないのだ。ほとんどの問題は「できない問題」ではなく「やらない問題」であり、「やりたくない問題」なのである。要するに「仕事は職場に集まってやりたい」という欲望だけが、そうさせるのである。理性を欲望が飲み込んでしまっているのだ。
僕は「できない理由」を連呼する連中を信用しない。彼らは本心では「できない」のではなく「やりたくない」のだ。現状維持の重力に魂を奪われたオールドタイプなのである。(ガンダムシリーズの)シャア・アズナブルならば粛清してしまっていることだろう。
「できない理由」は「できるためのハードル」である。乗り越えるべきハードルと捉えた人だけが組織を改善させる。ニュータイプだ。リモートワークにまつわる、あれやこれやの障壁……Wi-Fiが遅いとか、電気代がかかるとか、家族と一緒にいるのがつらいとか(そう思わせてしまう家庭環境は確かに気の毒だけど)、すべては克服するための条件に過ぎない。そして、それは克服できる。
「いやー、新聞社とか役所とかは、個人情報を扱ってますからね。在宅勤務は絶対に無理ですよ」
ほーら、また「できない理由」を言う連中が湧いて出る。我々医者は、自宅だろうが路上だろうが容赦なく電話がかかってきて、個人情報丸出しの相談を受け、これに対応し続けている。保健所からだって同様の電話が来る。もちろん、当該患者の個人情報は保護しなければならないし、その保護はできる。自宅にいる、は言い訳にはならない。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策にはある種の「覚悟」が必要だ。あまりにも、言い訳が多い。経済を回すためには、仕方がない? 本当に仕方がないのか。考えるのが面倒くさいから、「仕方がない」ってことにしたいのか。
「準備とは、言い訳の材料となりうるものを排除すること」。イチローの言葉である。
岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]