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【識者の眼】「疾患を持つ女性の妊娠による危険性を周知する必要がある」久保隆彦

No.5038 (2020年11月14日発行) P.61

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-10-27

最終更新日: 2020-10-27

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私も参加している厚生労働省池田班は全妊産婦の死亡分析を行っている。同班の2010年の死因分析では、産科危機的出血、脳出血、羊水塞栓等、出血を呈する疾患が約6割を占めていた。産科は従来からbloody businessと言われ大量出血と輸血は不可避であった。しかし、私も作成に関わった関連5学会による「産科危機的出血の対応指針」の普及・拡散・実践により、現在、出血による妊産婦死亡は半減した。一方、最近は感染症あるいはその他の死因が増加してきた。その中で気になる妊産褥婦死亡が散見されだした。

例えば、内科で悪性不整脈の管理をされていたが、その情報を不妊治療医には提供せず、体外受精で妊娠が成立し、本人の強い希望で妊娠継続したが、心室細動で妊娠中期に突然死した。また、幼少期からマルファン症候群といわれていたが、産科医に伝えておらず、十分な精査も無く妊娠後期に大動脈解離で突然死した。さらに、心疾患を有していたが産科医の管理を離れた育児期に突然死することも経験する。その他にも重篤な合併症を有するも、その情報が産婦人科医と共有されず、適切な評価・管理も無く妊娠に至り、死亡する症例が増加している。これには私は二つの原因があると考えている。

一つは、持病の事前評価が行われていない問題である。現在は母子手帳申請の際に約1/4は未婚であり、いわゆるできちゃった婚が増加している。これに伴い、持病が有るか否かも知らず、もしあっても事前評価無く妊娠に至るケースが増加しているといえる。また、不妊治療医が持病、服薬、感染症の抗体などの評価を十分に行っていないことにも問題がある。

もう一つは小児期から重篤な疾患が診断されていた場合、例えば糖尿病、甲状腺疾患、循環器疾患、小児外科術後など、小児科医あるいは小児外科医が妊娠可能年齢となっても継続して管理している問題である。幼少時から主治医と信頼関係が醸成されており、成人管理医師への変更を父母が嫌うためである。小児循環器医の患者の半数以上が既に成人であることは広く知られており、「成人期先天性心疾患」あるいは「移行医療」という概念が注目されている。しかし、小児科医は妊娠を念頭にした管理は配慮しない。

いずれにしろ、持病を持つ女性が妊娠を希望した場合には、疾患を管理する主治医に相談し、妊娠可能か否かの評価をして頂き、その情報を産婦人科医に伝達しなければならない。そうしなければ、死に至る可能性があることを産科以外の医師と妊娠を希望する女性および家族に周知する必要がある。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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