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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症とALS嘱託殺人事件から考える終末期医療」杉浦敏之

No.5038 (2020年11月14日発行) P.57

杉浦敏之 (杉浦医院理事長)

登録日: 2020-10-29

最終更新日: 2020-10-29

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新型コロナウイルスが世界的に流行し、国内でも多くの著名人が不幸な転機をとっている。新規感染症で、有効な治療法がまだないので致し方ないことではあるが、家族が死に立ち会えず、火葬後自宅に戻ってくるという報道をみてやるせない気持ちになった方は多いであろう。新型コロナウイルスに罹患していなくても、感染予防の観点から、施設入所者および入院患者に対する面会制限はあり、重症の患者に対しても思うように面会できない状況である。このような状況は、死に立ち会う機会を今まで以上に減少させ、死をさらに遠ざけてしまうのではないかと筆者は危惧した。ところが一方で、普段死ぬことをあまり考えない若年者が、新型コロナウイルスに罹患して致命的となったことを考えてエンディングノートを書くようになったとの報道があった。高齢者でなくても新型コロナウイルスに罹患すれば死ぬかもしれないと、死について考える機会が増えたとも考えられる。在宅医療の現場でも、最近は「入院してしまうと、死ぬまで会えない」と考える家族が多く、在宅での看取りが増加した。つまり、新型コロナウイルスは、死の現場から人間を遠ざけるという影響がある一方で、死を身近にイメージさせるという、対立した一面があると考えられる。

最近ALS患者の嘱託殺人が報道された。報道されている内容からすると、当事者の医師は糾弾されてしかるべきである。ただ、長尾和宏氏も本誌での連載記事(No.5030長尾和宏の町医者で行こう!!(113)京都ALS嘱託殺人事件に想う─終末期医療の議論を広げる契機に)で述べておられるように、自分自身がこのような患者に対峙した時にどのように考えるかが最も重要なことであり、このことをきっかけに終末期の医療に関する議論が活発になることを期待している。その際、単にこの出来事に関与した医師の行動が正しいのか、間違っているのかという議論に矮小化されるべきではない。また、いまだに混乱が続いている「尊厳死」と「安楽死」の違いを啓発する契機になればと願っている。

ちょうこくしつ座にあるNGC253(銀河)〈筆者撮影〉。地球からの距離は1070万光年

杉浦敏之(杉浦医院理事長)[現在の日本の医療体制下で安らかに人生を全うするには? ⑩]

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