No.5042 (2020年12月12日発行) P.64
川口篤也 (函館稜北病院総合診療科科長)
登録日: 2020-12-03
最終更新日: 2020-12-03
施設入所中の人の価値観、選好などを一番知っているのは、普段からケアに関わる介護職であることが多い。日常ケアの中で本人が喜ぶことや好きなものに触れる機会が多く、また嬉しい、悲しいといった感情を目の当たりにすることも多い。そのような日常のやりとりこそが広い意味でのACP(advance care planning)である。これまでは一部の施設を除いて意思決定の際に、介護職が参加することは多くはなかった。特に医療行為をどうするかという場合には、介護職自身も医療のことには口出しすべきではないという思いもあったかもしれない。本人が明確に意思表示できるならまだ良いが、施設入所者の多くは、一人で状況を的確に理解し判断できなかったり、急な場面ではうまく自分の気持ち、考えを伝えることが難しい。そのような時にこそ、普段の本人をよく知っている介護職が同席して本人をサポートし、時には気持ちを代弁することが必要である。介護職の人も、自分達がそのような役割を担うのだという気持ちを持って普段から接してほしいと思う。介護職が気をつけなければならないのは、自分はその人のことをすべてわかっていると思いこみ、自分の価値観を押し付けることである。本人の生活に長く接してはいるが本人のことをすべてわかることは不可能なので、そのことに自覚的になりながら本人をエンパワメントする姿勢が大切である。
実は最も大事なのは、医療職が介護職の意見に耳を傾ける姿勢である。多くの介護職は医師や看護師に自分の意見を言ってはいけない、畏れ多いなどと思っているので、医療職から介護職に積極的に意見を求める姿勢がほしい。またせっかく介護職が勇気を出して伝えても、医療職が全然相手にしないような態度であればもう二度と話したいとは思わないであろう。施設では介護職が本人の代弁者となりうることに自負を持って働いて欲しいし、医療職も介護職の意見を大切なものとして意思決定に結びつけてほしいと願っている。
川口篤也(函館稜北病院総合診療科科長)[人生会議③]