No.5044 (2020年12月26日発行) P.63
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2020-12-08
最終更新日: 2020-12-08
今回は、民事執行法の改正についてお話しします。国民皆保険制度のもとでは、医療機関の債権回収というニーズは決して多くありませんが、自費診療や入院費の場合、医療機関側が債権者となっているケースでは、決して無関係とは言えません。
民事執行法は、簡単に言うと判決などに基づく強制執行について定めた法律です。判決や裁判上の和解を経たのに、債務者が支払いを行わない場合、債務者の財産を差し押さえて、強制的に債権を回収することができるというものです。
しかし、改正前の制度は、債務者の「逃げ得」を許してしまうようなシステムでした。というのも、債権者は、債務者の財産を自分で探して、強制執行を申し立てる必要があるからです。当然、他人の財産の在処を見つけるのは容易ではありません。私も預金を差し押さえるため、相手方住所地付近の銀行に、絨毯爆撃のように強制執行をかけた経験がありますが、当然「空振り」も多く、なかなか難しいのが実情でした(このケースでは一部差し押さえがうまくいったので、ある程度弁済されましたが)。
もちろん、債務者を裁判所に出頭させて、自分の財産について報告させる「財産開示手続」という制度もあります。しかし、改正前は、出頭しなくとも「30万円以下の過料」のみしか制裁がなく、ほとんど実効性がありませんでした。私も財産開示手続申立ての経験がありますが、実際の債権回収に結びつけるのは至難の業でした。
そこで、今回の改正では、判決や和解調書、公正証書といった強制力のある債務名義を持っている債権者は、裁判所に申し立てて、債務者の預貯金、不動産及び勤務先等の情報を得ることができるようになりました(民事執行法205〜207条)。また、「財産開示手続」についても、債務者が出頭しない場合に「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(刑罰)が科せられるようになりました(民事執行法213条)。実際、今年の10月に神奈川県で、財産開示手続に出頭しなかった債務者に対し、債権者が刑事告発し、書類送検されたケースが報道されています(余談ですが、法律に「書類送検」という言葉はなく、「送致」が正しいです)。
今回の民事執行法改正で、債務者の「逃げ得」はある程度防げるようになったといえます。ただ、債権回収に費用とエネルギーがかかることに変わりはなく、「支払いがされない」という状況自体を作らないことが重要です。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]