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【識者の眼】「プライマリケアにおける寄生虫症診療」水野泰孝

No.5052 (2021年02月20日発行) P.55

水野泰孝 (グローバルヘルスケアクリニック院長)

登録日: 2021-01-20

最終更新日: 2021-01-20

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日本において寄生虫症の患者を診療する機会はきわめて少ない。感染症の中でさえもマイナーな微生物であり、最近では医学部の講義数も少ないことから正しい知識を持っている医師も多くはないだろう。寄生虫症として多くの医師が思い浮かべるのはセロテープ法で虫卵を確認する蟯虫症かもしれないが、最近では学校での集団検査を行わなくなったので患者に遭遇する機会も少なくなっている。私の施設は感染症内科を主たる診療科とする診療所であるが、一昨年の開院以来、寄生虫関連の健康問題を主訴とする患者が年間200名近く受診し、こんなにも多くの日本人が寄生虫に悩まされていたのかと驚いたところではあるが、内訳として最も多い寄生虫症は日本海裂頭条虫症(サナダムシ)である1)

一般的に腸管寄生虫症を疑う場合の臨床検査は糞便検査であり、顕微鏡下に虫卵を検出すれば虫種が確定される。釈迦に説法かもしれないが便培養や便潜血検査ではない。また血液像による好酸球数や血清総IgE値も虫種によっては診断指標になることがあるものの、幼虫移行症を除き腸管寄生虫症では変化はみられないことが多い。

患者の立場からすれば、排便時に虫体が出てきたと大変驚かれるが、胃腸の問題と考えることからか消化器内科を受診することが多いようである。そこで対応困難であれば感染症内科にご紹介いただければ何ら問題はないのだが、総合病院ですら適切な検査や正しい説明がなされずに、蟯虫症や回虫症などの治療薬としては有名なピランテルパモ酸塩(コンバントリン)が処方されたが、虫体排泄が持続するということで当院を受診される患者も散見される。条虫症の治療薬はプラジカンテル(ビルトリシド:保険適用外)である。条虫症以外でも多くの寄生虫症は適切な診断がなされれば、抗寄生虫薬により単日および数日で治療が完結する。きわめて稀な感染症ではあるものの、簡易な診断法、特効薬も存在する訳なので、患者に手間や余計な心配をかけないようにしたいものである。

当院では国内で承認されているほぼ全ての抗寄生虫薬を常備しており、寄生虫感染を不安に思われる患者に対して正確な情報の提供、適切な治療が行える医療体制を維持していきたいと考えている。最近では遠方のため受診困難であったために、オンライン診療による診断・治療を行った患者も経験しており、日本全国からのご紹介もお引き受けしている。

【文献】

1)水野泰孝:Clinical Parasitology. 2020;31(1):16-8.

水野泰孝(グローバルヘルスケアクリニック院長)[感染症診療]

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