No.5065 (2021年05月22日発行) P.65
浅香正博 (北海道医療大学学長)
登録日: 2021-04-27
最終更新日: 2021-04-27
ピロリ菌除菌で早期胃がん内視鏡手術後の二次胃がん発症が抑制され、その結果がLancetという超有名誌に掲載されたことで、厚生労働省はそれまで門前払いに近かった態度を改め、保険による除菌の適応拡大の話を聞いてくれるようになった。そして2010年6月に公知申請により胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、早期胃がんに対する内視鏡治療後胃の3疾患に適応拡大されることになった。この時の折衝の過程で多くの日本人が罹患している萎縮性胃炎についてはエビデンスの点から難しいという感触を受けた。
2011年に改めて厚労省と話し合いの会を持った。萎縮性胃炎よりさらに上流に位置する慢性胃炎からすべてのピロリ菌関連疾患が生じるので、是非この疾患を保険で除菌できるようにしたいと説明を行った。慢性胃炎についての除菌効果は多くのエビデンスがあったからである。説得を続けたところ厚労省から、保険適用の必要性について納得できる説明を受けたので認める方向で検討したい、と思いもかけぬ返事が返ってきた。保険病名としては国際分類であるICD-10に則って行いたいとの希望があり、その際、慢性胃炎は関連病名が30近くもあるので、その中の一つのピロリ菌感染胃炎ではどうかと提案してきた。願ってもないことであった。
その後、武田薬品工業、エーザイをはじめとするピロリ菌除菌に関連する薬剤を販売している9社に厚労省から集まるよう指示があり、その場で慢性胃炎の除菌適応拡大で公知申請を行う意思があるか否かを確認された。全社が行う意思のあることを表明した。その後、私が理事長をしていた日本ヘリコバクター学会、日本消化器病学会および日本消化器内視鏡学会の3学会から要望書を作成して厚労大臣宛に提出した。9社は共同で公知申請の書類作成に全力をあげ、100ページを超える膨大な公知申請の書類を正式に厚労省に提出した。その結果、2013年2月21日に保険収載され処方が可能となった。世界で初めて、わが国で胃炎に対するピロリ菌除菌が保険を通ったのである。この日を私は一生忘れることができない。これを武器にしたピロリ菌除菌によるわが国からの胃がん撲滅計画が現実味を帯びてきたのである。
浅香正博(北海道医療大学学長)[除菌療法]