No.5065 (2021年05月22日発行) P.62
紅谷浩之 (医療法人社団オレンジ理事長)
登録日: 2021-05-07
最終更新日: 2021-05-07
日本は、世界で最も赤ちゃんが死なない国である(新生児死亡率:出生1000対0.9)。以前なら亡くなっていたであろう週数や低体重で産まれた子どもたちや、先天性疾患を持った子どもの命をつなぐことができるようになってきた。医療の発達が誇らしい記録を支えている。医療を受けたあと退院する子どもたちの中には、医療機器を日常的に必要とする状態のまま、生活に戻る子どもたちもいる。「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちである。勘違いしてはならないのは病気や障害があり、何かしら医療のサポートが必要であっても、子どもたちは成長を続けるということだ。病院を退院し、家族らと一緒に家へと帰る。地域へ飛び出し、初めての体験を重ねていく。このプロセスは医療ケアがあってもなくても同じであって欲しい。しかし、地域社会の側がそうした状況の受け入れを躊躇してしまっている。子どもたち自身があたりまえに受け入れた状況を、大人たちが受け入れられていない、とも言える。例えば保育園に受け入れ体制がない、地域の学校に通学できない、公共交通機関に乗れない、などの課題が生じている。
産科や新生児科のドクターたちが必死につないだ命を引き継ぎ、すくすくと育っていけるような社会にすること。これは地域医療を専門とするチームの役割ではないだろうか。病気や障害だけでなく、その子の想いに耳を傾けるとともに、家族や将来の夢にも思いをめぐらせる。人生に伴走する。時には地域へ直接アプローチして、ともに暮らしやすい社会を考える。ここに地域医療の専門性がある。課題は子どもたちの中ではなく、地域社会の側にある。取り組むべきことはまだまだある。世界で最も赤ちゃんが死なない国は、同時に世界で最も子どもたちが幸せに暮らしていける国でなければならない。
紅谷浩之(医療法人社団オレンジ理事長)[暮らしやすい社会]