本連載(110)(5062号)で述べたように、私は4月20日の衆議院厚生労働委員会で、「一定所得以上」の後期高齢者の窓口一部負担の2割化に反対する意見陳述をしました。その後の質疑応答で、複数の議員から、厚生労働省が一部負担増による医療費抑制効果を推計する際に用いている「長瀬式」・「長瀬効果」(以下、長瀬式)について意見を求められ、大要、以下のように述べました。
①長瀬氏の研究は1935年当時としては画期的だが、いわゆる長瀬式はごく簡単なデータに基づいて推計されており、そのままでは使えない。②厚生労働省も、オリジナルな長瀬式ではなく、その後の新しいデータに基づいた、係数が異なる別の長瀬式を作っているが、用いたデータも推計プロセスもまったく公表していないので、その式に基づいて受診率低下がわずかだとの説明が妥当か否かは判断できない。③議会は、厚生労働省が今回長瀬式による推計で用いたデータと推計プロセスを公開するように求めるべき。
長瀬式をめぐっては、4月14・23日の厚生労働委員会でも、厚生労働大臣や政府委員(厚生労働省担当者)と野党議員との間で激しい論戦が行われました。そこで、長瀬恒蔵『傷病統計論』(健康保險醫報社出版部,1935)にまで遡って、長瀬式の信頼性について検討しました。
その結果、以下の3つが分かりました。①長瀬式はオリジナル版も、厚生労働省の修正版も「算出の方法」が不明で信頼性に欠ける。②長瀬式に対してはすでに2人の研究者が的確な批判を行っている。③仮に厚生労働省の修正版長瀬式を用いると、後期高齢者の2割負担化は、3年間の「配慮措置」(後述)終了後には、外来受診を1割減らす。