菅義偉内閣は6月18日「経済財政運営と改革の基本方針2021」(以下、「骨太方針2021」)を閣議決定しました。今回はそれの社会保障・医療改革方針を、安倍内閣時代の「骨太方針」との違いに注目しながら検討します。
「骨太方針2021」は、安倍内閣時代の「骨太方針」と同じく総花的・網羅的で、「もはや骨太ではなく、予算獲得を狙った各省庁の要望の寄せ集めに」(「東京新聞」6月19日)との批判は的を射ています。しかし、安倍内閣の最後の「骨太方針2020」と比べて、微妙な違いがあることも見落とすべきではありません。以下、2点指摘します。
私が「骨太方針2021」全体で一番注目したのは、第2章4「少子化の克服、子供を育てやすい社会の実現」の項で、以下のように書かれたことです(17頁)。「将来の子供たちに負担を先送りすることのないように、応能負担や歳入改革を通じて十分に安定的な財源を確保しつつ、有効性や優先順位を踏まえ、速やかに必要な支援策を講じていく。安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」。
これは今後の負担増を示唆しており、菅首相が安倍前首相の方針を引き継いで、総裁選挙時に述べた、消費税は今後10年引き上げないとの言明と異なります。「安定的な財源の確保」という表現は「骨太方針2020」「同2019」にもありましたが、高所得者の負担強化を意味する「応能負担」という表現は、第二次安倍内閣時代の「骨太方針」では一度も使われず、今回が初出です。よりストレートな「応能負担の(を)強化」は、3回も使われています(36頁で2回、38頁)。
「企業負担」の引上げを示唆する表現も「骨太方針」では初めてと思います。実は、これは2021年度予算で一部実現しています(待機児童解消策における事業主拠出金の追加醵出)。
以上の変化は、菅内閣成立後、正確に言えば安倍内閣の末期から、政権内での経済産業省の影響力が失墜し、財務省が復権したことの反映と言えます。
「応能負担の強化」は、コロナ危機を契機にして、高所得者や大企業への負担増(の検討)が進められている国際的流れとも合致しており、歓迎できます。