No.5078 (2021年08月21日発行) P.62
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2021-08-03
最終更新日: 2021-08-03
高齢者に対する新型コロナウイルスのワクチン接種は進んでいますが、ワクチン入手の目途が立たず、職域接種が一部停止される状況が生じています。一方で、感染者も増加傾向にある上、3回目のワクチン接種も必要ではないかとする報道もあり、予断を許しません。
今回は、ワクチン接種の副反応による健康被害が生じた場合、責任の所在はどうなるのか、という点についてお話ししたいと思います。
予防接種においては、問診を行う医師と接種を実施する者が違うケースも多く、副反応が生じた場合、問診を行った医師が責任を問われるのではないかという不安の声も聞かれます。特に今回のワクチン接種では、歯科医など普段予防接種を行っていない方が接種を実施する可能性もあります(実際に、顧問先のクリニックから同様の問い合わせがありました)。
結論から申し上げると、副反応により健康被害が生じた場合でも、医師や医療機関が責任を問われる(賠償責任を負う)ことは基本的にありません。
というのも、予防接種法15条1項で「市町村長は、当該市町村の区域内に居住する間に定期の予防接種等を受けた者が、疾病にかかり、障害の状態となり、又は死亡した場合において、当該疾病、障害又は死亡が当該定期の予防接種等を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したとき」は、給付を行うと規定されているためです。本条は、予防接種は社会防衛上行われる重要な措置である一方、不可避的に健康被害が生じる可能性があるという特殊性から規定された救済措置です。そのため、医療機関等の過失の有無にかかわらず、副反応の健康被害については、市町村が責任を負うと規定されています。
理論上は、医師や医療機関に「故意または重過失(故意と同視できるような極めて重大な過失)」がある場合、市町村が求償を行う余地はありますが、よほどのことがない限り、まず考えられないでしょう(なお、市町村から「重過失」を理由とした求償を求められた場合でも、医師損害賠償責任保険がカバーすることになります)。安心して、接種を実施していただきたいと思います。
余談ですが、職域接種などにより、居住する市町村以外で予防接種を受けていても、上記のような副反応による健康被害の責任は、居住する市町村が負うことになっています。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]