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【識者の眼】「保健所と医療現場の速やかな患者情報の共有を」小倉和也

No.5081 (2021年09月11日発行) P.54

小倉和也 (NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク会長、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2021-09-02

最終更新日: 2021-09-02

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新型コロナ陽性の自宅療養者が増加している。残念ながら各地で急変した患者の救急搬送や死亡例の報告も相次いでいる。その中には自宅療養とはいえ実際には保健所による健康観察や必要時の医療介入が追いつかず、時には正式な自宅療養者として適切に把握されていない場合もあり、実質的に放置された状態で療養期間のほとんどを過ごす例もあるようだ。地域により状況は異なるが、全国で約12万人の自宅療養者のかなりの割合の方がそのような状況に置かれているものと考えられる。

陽性者の必要に応じた健康観察やオンライン診療、往診や入院などを担う医療機関の数が患者数に追い付いていないこともあるが、医療機関が手を挙げていても、どんな患者がどこにいて、何を必要としているかの情報が保健所から提供されないことも大きな要因となっている。

指定感染症である新型コロナ陽性患者が発生すると、その情報は一旦保健所に集約され、情報収集が行われるが、残念ながら多くの場合その貴重な情報は、紙やデータとしてしばらく寝かせられることとなり、数日または療養終了まで現場の医療者に届くことはない。患者自身はその情報が治療のために活用されることを願い、苦しい中で現状を伝えるが、それが医療者に伝わる前に急変したり、介入した時点では既に重症化していることもある。

現在の電話とFAX主体の業務と人員数には限界があり、現場で必死に対応している担当者が悪いわけではない。一年半の間に情報共有と連携体制が整えられなかったことを今責めることも無益である。とにかく感染爆発で多くの患者が事実上放置される状況になった以上、平時同様の業務の完全性やあるべき論に拘らず、日々急変する患者を一人でも救うため、書類や手続き業務の簡略化と患者のケアを中心に置いた優先順位の見直しを行うことが必要ではないだろうか。

より多くの医療者が健康観察と電話やオンラインでの診療、往診まで可能な形で医療介入することをより積極的に行い、そこに必要な情報が提供されることが急務であろう。そのために走りながらではあるが、行政と医師会がともに患者の側を向いて協力できるよう地域でも取り組んでいる。コロナ渦の現状に緊急に対応し、今後の行政と医療の連携のあり方をより良いものにするきっかけにもできればと考えている。

小倉和也(NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク会長、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新型コロナウイルス感染症]

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