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【識者の眼】「後期高齢者医療被保険者証に切り替わって思う社会保障制度の持続可能性」栗谷義樹

No.5085 (2021年10月09日発行) P.61

栗谷義樹 (山形県酒田市病院機構理事長)

登録日: 2021-09-30

最終更新日: 2021-09-29

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今年7月、誕生日を過ぎて保険証が後期高齢者医療被保険者証に切り替わった。

これまでは、成人、不惑、還暦、古希〜人生の節目と言われる年齢になっても、感慨らしいものが湧いた記憶がないが、今回ばかりは頼んでもいないのにある日突然、社会から後期高齢者! という三角帽子を被らされ、境界を張り巡らされたような軽い衝撃を覚えた。雇用主負担もこの日を境になくなったので、自己負担額も跳ね上がった。引き落としの口座番号などを通知するよう告げられ、自営業者でもない自分が、この歳まで勤務していることが、実はかなり特殊な状況であるらしいことをヒシヒシと理解した。

この原稿を書いている時点(9月26日)で自民党総裁選挙の争点の一つに、年金改革がある。少子高齢化を背景に給付額の抑制が進み、このままではほとんど給付を貰えなくなる高齢者も増えていくらしい。人口減で現役世代が減ることが一番の理由だが、今後の経済成長と高齢者の労働参加が、想定した最大の推計値で進むケースでも、所得代替率は半分ほどまで下がるという。

だいぶ以前の話だが、2016年12月の日経コラムに、「社会保障制度を解散する」2030年悪夢のシナリオ〜という記事が掲載されていた。2030年X月に時の首相が現在の社会保障制度を解散する〜と宣言するものだが、解散理由は年金積立金が2043年に枯渇する見通しとなったためである。2014年時点の維持可能試算は、賃金2%アップ、運用利回り4.2%の前提で作られているそうだが、解散宣言時の実態は賃金2% アップ、運用利回り2%弱〜、ここに及んで、制度持続が不可能であることが明らかとなったためだ。この時点での国民が受け取る権利総額は、年金1262兆円、医療458兆円、介護247兆円、総額2000兆円というが、この他にも既に多額の政府債務が積みあがっているのは周知のことだ。

先日、たまたまお会いした専門の方々から、わが国の経常収支が赤字に転落することはありえないとの有り難い見解をお聞きした。その限りにおいては日本国という家族の中で家庭、企業、金融機関、日銀、政府の間を借金が巡回しているようなものだろうから、安心? して良いのだろうとも思うのだが、それにしてもこの後始末、誰がどうつけていくのだろうか。

栗谷義樹(山形県酒田市病院機構理事長)[社会保障制度]

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