No.5088 (2021年10月30日発行) P.56
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2021-10-06
最終更新日: 2021-10-06
先日、コロナワクチンの接種をめぐって「ワクハラ(ワクチンハラスメント)」の問題が顕在化するのではないかという懸念をお話ししました。「コロナワクチンの接種を拒否したことを理由に解雇や雇止めすることはできない」ということは、多くの専門家が指摘するところです。
一方で、その他の問題については、専門家の見解が一致していない部分も多く、現場が対応に苦慮する場面が生じてきています。
厚生労働省は上記を踏まえ、コロナワクチン接種と採用・配置転換について、ウェブサイトで「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」を公表しました。
ここでは、ワクチン接種を採用条件とすることを禁じる法令がないことを明確にしています。医療機関の採用においては当然、患者との接触等、感染拡大を防止する必要性がきわめて高いでしょう。「医療機関として感染拡大防止の観点から、ワクチン接種を採用の条件とする」と明示するなどして、採用することは問題ないと考えられます。
また、厚生労働省の上記ウェブサイトでは、ワクチン未接種の従業員を顧客等と接しない部署に配置転換することについて、配置転換命令が権利濫用にあたるような場合でない限り、配置転換を命じることができると記載されています。
確かに、一般的な企業であれば、配置転換することのできる部署があり、職種や勤務地を限定していないケースが多く、配置転換はある程度容易です(裁判所は解雇については厳しく判断しますが、配置転換については使用者側の裁量を広く認める傾向にあります)。
しかし、医療機関の場合、そもそも「患者と接することのない部署」というもの自体がきわめて少なく、職種限定での採用も多いことから、配置転換は決して容易ではありません(職種限定での採用の場合、その限定を超えて配置転換を一方的に命じることができません)。
ワクチンを接種しないスタッフに対しては、丁寧に配置転換の必要性を説明して、患者との接点ができるだけ少ない部署や職種への変更についての同意をとる必要があります。
一般論にはなりますが、解雇がきわめて難しい日本の労働法制の下では、新規採用時に、いかに採用する側の医療機関にフィットする人材を確保できるかという点がきわめて重要です。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]