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【識者の眼】「交渉における感情との向き合い方」川﨑 翔

No.5116 (2022年05月14日発行) P.63

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2022-04-04

最終更新日: 2022-04-04

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先日、アカデミー賞の授賞式で、俳優のウィル・スミスさんが、妻に対して侮辱的な発言をした司会者を平手打ちにするという出来事がありました。もちろん、暴力も他人に対する敬意を欠いた発言も、ともに許されるものではありません。それを前提に、交渉においてどうやって感情に向き合い、そして折り合いをつけていくべきかを考えてみたいと思います。

まず、ウィル・スミスさんはどのように対応するのがより適切だったのでしょうか。正当防衛にあたらない限り、暴力に訴え出ることはいい方法とは言えません。実際、アメリカ映画芸術アカデミーはウィル・スミスさんの行動を非難するコメントを出しています。

しかし、妻を侮辱するような発言を笑って見過ごすこともできないでしょう。

人間である以上、交渉において、感情を完全に排除することはまず不可能です。私は、交渉において重要なのは「瞬発力」と「合理性」だと思っています。「瞬発力」は怒りや嫌悪といった感情が支配している部分も大きく、今回のウィル・スミスさんのように、すぐに抗議ができるというのも一つの能力です。

一方で、感情にまかせて、抗議の手段として暴力を選択するといった「合理性」のない行動は控えるべきです。抗議の意味が薄れてしまいますし、何より、暴力に対するペナルティーは決して小さいものではありません。

今回で言えば、ウィル・スミスさんは、妻を侮辱するような発言に対して、すぐさま「あなたの先ほどの発言をもう一度してみてほしい。あなたの発言は間違っている」という抗議をすべきだったと思います。ポイントは、すぐに抗議をすることと、問題となった発言を相手にもう一度考えさせること、にあります。そうすることで、こちらも冷静になれますし、相手が自ら謝罪することもありえたでしょう。

これは、クレーム対応でも同じです。クレーム対応の現場では、あえて挑発的な発言をする人や、強い言葉を発してこちら側の出方を探っている人もいます。こちら側が感情的にならないよう、上記のような方法は有益だと思います。

とはいっても、クレーム対応を行うことになるスタッフの皆さんが上記を理解して、冷静に対応するというのは簡単ではありません。日頃からイメージトレーニングをしつつ、クレーム対応が発生した場合には、専門家のアドバイスをもとに、感情的な対応にならないように気をつける必要があるでしょう。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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