No.5117 (2022年05月21日発行) P.65
坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)
登録日: 2022-04-08
最終更新日: 2022-04-08
厚生労働省は、3月4日に2022年度薬価基準改定を官報告示した。改定率は薬剤費ベースで▲6.69%(医療費ベース▲1.35%)であり、21年実施の薬価調査結果の平均乖離率7.6%に基づいている(20年調査では8.0%)。調整幅は、21年度改定では「一定幅」を加えて2.8%であったが、今回は2%に戻された。今後、医療機関・薬局での購入価格の価格交渉が本格化し、価格交渉の結果としての市場実勢価に基づき23年度にも中間年改定が実施されることになる。
相次ぐ薬価引き下げに加え、新薬創出加算等より薬価改定額のほうが大きく、日本での革新的新薬の上市の遅れや安定供給が懸念される状況となっている。年末に向けて薬価改定のあり方についての議論が進められるが、現状、薬価改定には市場実勢価形成の不透明さと調整幅の根拠の2つの論点があると考えられる。
わが国の薬価改定は、市場実勢価をもとに価格改定がルール化されているが、行き過ぎた納入価の引き下げとなっているとの指摘がなされている。医療機関・薬局側の購入姿勢にも問題がないわけではなく、供給側の価格提示も含めた流通の問題が多いと言える。2021年9月に公表された「医薬品産業ビジョン2021」でも「ユーザーに対する価格形成に自覚と責任を持ち主体性のある交渉力」の重要性が指摘されているものの、そもそも生命に関わる医薬品でありながら、その流通の仕組みは複雑で「前近代的」とも言える。
メーカーから医療機関・薬局に薬が届くまでの過程には、一般の医薬品卸や直販ルート以外にも、実際には、後発品を中心とした「販社」、薬局やメーカーが独自に設立した「垂直統合型卸」やメーカーや薬局による「自社物流」(昨年には、自社流通に関わる倉庫の火事により安定供給に支障をきたす事案もあった)などがある。ほかにも、医療機関が独自に設置した「中間業者」(いわゆる「トンネル会社」)、薬局の共同購入を請け負うコンサルや価格交渉代行業者など、一般には知られていない様々な組織が複雑に介在している。これらの組織の存在は、価格形成をきわめて不透明なものとしているだけでなく、そもそも薬価調査の正確性にも問題を生じせしめていると推察される。こうした複雑な流通が価格交渉にどのように影響を与えているのかを明らかにし、医薬品流通の近代化に取り組んでいく必要がある。
一方、調整幅については、包装間の逆ザヤ防止などの流通経費や医療機関・薬局での保険でカバーされない管理や損耗廃棄等に係るコストとして調整幅が設けられてとされるが、2%の根拠は必ずしも明確ではない。また、新しいモダリティ(治療技術)の登場のもとで2%では、流通経費として十分ではないことも推察される。調整幅の位置づけ、コスト補填であればその根拠に基づいた調整幅のあり方の議論も重要である。
坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]