No.5120 (2022年06月11日発行) P.62
西﨑祐史 (順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)
登録日: 2022-05-27
最終更新日: 2022-05-27
前回(No.5116)の記事では、研修医の自己研鑽時間と基本的臨床能力の間には正の関連性を認めることを説明した。また、2024年度より導入される医師の働き方改革の影響で、今後は、臨床現場における研修医の診療の機会(経験)が減る可能性があるだろう。このような現状から、より一層質の高い自己研鑽の時間を確保することが、研修医の基本的臨床能力の開発にとって必要不可欠であると考える。
そのためには、短時間で効率的に学べる教育ツールが鍵となる。臨床医にとって身近な例のひとつとして、UpToDateがある。UpToDateは、「エビデンスに基づく最新の医療情報」にアクセスできる電子教科書で、臨床意思決定支援ツールとも呼ばれている。最新の研究論文に基づいた知見が定期的に更新され、臨床現場で生まれる疑問の解決に役だつ、便利なツールである。国内外の多くの医療機関で採用され、医師のみならず、学生やコメディカルからも、様々なシーンで用いられている。
メイヨー・クリニックで内科研修中の195名の研修医を対象とした興味深い研究が報告されている。UpToDateの使用機会が多い研修医ほどIM-ITE(Internal Medicine In-Training Examination)スコアが高い、すなわち臨床能力が長けていることが示された。具体的には、UpToDate100時間の利用あたり、3.7%のIM-ITEスコア増加と関連性があると報告されている1)。
私たちが実施した、わが国の研修医を対象とした研究からも同様の結果が得られている。NPO法人日本医療教育プログラム推進機構(Japan Institute for Advancement of Medical Education Program:JAMEP)が開発した、基本的臨床能力評価試験(General Medicine In-Training Examination:GM-ITE)のデータを使用し、基本的臨床能力(GM-ITEスコア)とUpToDate使用の有無との関連性について検討した。2017〜19年度のGM-ITEに参加した1万1244名の初期臨床研修医を対象とした。多変量解析の結果から、UpToDateの使用は、GM-ITE高スコアと有意に関連した(Estimated Coefficient 1.484,Standard Error 0.166,P-value <0.001)2)。
本結果は、UpToDateを使用した学習が研修医の基本的臨床能力を向上させる可能性を示している。研修医のみならず、指導医も含めて、病院全体でエビデンスに基づく教育を実践し、充実した屋根瓦式教育を構築することが重要であり、その鍵となるのが、UpToDateを中心とした優れた電子教科書であろう。
※「NPO法人日本医療教育プログラム推進機構」および、「基本的臨床能力評価試験」の詳細については、第1回の記事を参照。
【文献】
1)McDonald FS, et al:J Gen Intern Med. 2007;22(7):962-8.
2)Nishizaki Y, et al:BMC Med Educ. 2020;20(1):426.
西﨑祐史(順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)[研修医][働き方改革][総合診療]