株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「コロナ後の世界の考え方」岩田健太郎

No.5120 (2022年06月11日発行) P.56

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-05-30

最終更新日: 2022-05-30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

まだ、コロナ後の世界はやってきてはいない。が、コロナ後の世界という可能性が見えてきているのは事実だ。

大きかったのはオミクロンとワクチンだ。両者の組み合わせでコロナ感染のリスクは激減した。このことは一つひとつのコロナ感染の防御に費やすエネルギーの大きさが「割に合わなく」なってきたことを意味している。

2020年の2月に僕がダイヤモンド・プリンセス号に入ったときは、その感染対策の杜撰さに絶望し、かつグリーンだかレッドだかわからない空間を背広を着た官僚や、搬送されようとしている感染者たちが交錯しているのを見て、さらに絶望した。次いで感じたのは「これじゃ自分も感染するかもな」という恐怖だった。当時の野生株はまだ、それを恐怖させるに十分なウイルスだったし、我々はワクチンなど打っていなかった。世界保健機関(WHO)はコロナのために、世界で10万人程度の医療従事者が絶命したと推定している(https://www.who.int/news/item/20-10-2021-health-and-care-worker-deaths-during-covid-19)。

現在、家族や友人や同僚がコロナに感染しても「あ、あなたも感染しましたか」という程度で、往時の恐怖はどこかへ行ってしまった。もちろん、僕もlong COVID患者を診ているし、この問題を放置して良いわけでもない。しかし「もはや、コロナは当時のコロナではない」のもまた事実だ。

さてコロナ後の世界である。「以前に戻す」のではなく「build it better」の精神で臨みたい。リモート会議が常識化し、かつての出張業務が無意味で無駄なブルシットジョブだとわかった。何十回も東京往復していた時には戻りたくない。移動による環境悪化、二酸化炭素排出も真剣に吟味すべきだ。出張は働き方改革にも、ワークライフバランスにも逆行する。

感染対策の法律、制度、組織の前時代性も明らかになった。新型インフルやSARSのときみたいに「喉元すぎれば」、でまた現状維持に戻したり、弥縫策で「やったふり」をするのではなく、徹底的にラディカルにこの辺は大改革すべきだ。が、制度設計をしている人たちが旧時代の価値観の人だからな。結局、ブルシットジョブも環境もワークライフバランスもガン無視して、また古き悪しき出張バンザイな世の中に戻っちまうのかね。旧時代の人、またかと言われぬよう、きばれ。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top