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【識者の眼】「国民皆歯科健診の導入と同時に歯科医療に予防の概念の導入が必要だ」槻木恵一

No.5127 (2022年07月30日発行) P.58

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2022-06-30

最終更新日: 2022-06-30

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国民皆歯科健診という話題が6月初旬、急にマスコミに出はじめた。この国民皆歯科健診は、導入に向けて議員連盟もあり以前より取り組みが進められてきた案件である。国民皆歯科健診の記述は、いわゆる政府の骨太の方針に昨年も存在していたので、今回初めて出てきた話題ではない。しかし、マスコミに大きく取り上げられ、多くの国民は驚いたのではないだろうか。

ぜひ、知ってほしいのは、歯科の病気の主体を占めるう蝕や歯周病は、予防を効果的に進めることができる病変なので、病気になる前から行う「一次予防」は、理論的に絶大な効果が見込める可能性が高いということである。事実、8020運動という80歳で20本の歯を残そうという国民運動は、4年ごとの調査で、毎回歯の残存本数が多くなっており、予防を進める効果は実証済みである。

しかし、歯科健診をやる意味を国民に十分に理解してもらわねば、この制度は成功しないかもしれない。特に、日本人の歯科への受診行動の主は痛くなってからであり、痛くなる前に歯科医院に行くという文化がない。文化がないところに、いきなり制度として上から押しつけても、受け入れてもらうには相当の工夫がいると思われる。簡単な話ではない。

さらに、重要なことは現在の歯科医療は、「削って詰める」という治療が主体である。一次予防は、継続的な管理が必要であり、1回の健康診査を受けて終わりではない。

制度として国民皆歯科健診は無料となっても、その後のフォローに健康保険が使えず自費での実施となったら、歯科医院を儲けさせるためにやっているのでは、と誤解を生む可能性がある。すなわち、歯科健診の導入と同時に歯科医療全体を予防の概念の導入を含めて見直さなければならないのである。

国民皆歯科健診に対して、医科の先生はどのようにお考えだろうか。歯周病は、糖尿病など様々な全身疾患に悪影響を与えることが知られるようになり、医科にとっても歯科との連携の必要性の理解が進んでいる。医科からの建設的な意見が、この制度を成熟させると考えられる。歯科だけの問題ではない、是非とも共有をお願いしたい。

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[一次予防][医科歯科連携]

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