No.5133 (2022年09月10日発行) P.64
西條政幸 (札幌市健康福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)
登録日: 2022-08-30
最終更新日: 2022-08-30
日本で初めてCOVID-19流行が確認された地は、北海道である。今から2年8カ月前のことである。私は今から35年程前に旭川医科大学を卒業し、小児科医として北海道で働き、その後縁があって国立感染症研究所(感染研)に異動した。現在、札幌市保健福祉局・保健所で医療職として働き、COVID-19対策にあたっている。ホームタウンに戻ってきた。大学時代の先輩である医師が、日本で初めてのCOVID-19の小児例を感染研が刊行する英文誌Jpn J Infect Disに報告している(https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/73/5/73_JJID.2020.181/_article)。私にとって旭川は故郷のひとつである。
札幌市のCOVID-19流行がなかなか収まらない現状から、2021年に札幌市保健福祉局・保健所に異動して以降、旭川を訪問する機会がなかった。先日、何年かぶりに大雪山系(旭岳を含む山々)を登山した。コマクサなどの高山植物も満開であった。
前日夜に旭川に入り、事前に長年お世話になった、「清本」という料理屋(居酒屋、店名を明記することを承諾されている)が開かれていることを確認した上で訪れた。その日のお客は私が二人目で、一人目はそのお店の看板メニューのひとつである「芋団子」を食べたいとして東京からいらしたお客さんだということであった。そのためマスターの奥様が朝からその日の夜に振る舞うために「芋団子」の下拵えされていた。私が訪れた時にはお客はおられなかった。長年お世話になった料理屋さんの気心の知れたマスターと会話を楽しみながら、「芋団子」や魚料理の懐かしい味を堪能した。このCOVID-19流行にも負けずにお店が開かれていることをとてもうれしく思った。その店を後にして、やはり長年お世話になったスナックにも寄った。いわゆるハシゴである。通い続けて40年にもなるお店である。お客は私を含めて、二名だけであった。経営者のお二人は困難な状況にあってもお店を開き続けることを大切に考えられていることを学んだ時間であった。
COVID-19流行が始まってからは、それ以前のように外で会食する機会は激減し、友人や職場の同僚と会食することもなくなった。COVID-19流行の感染源のような場所として、いわゆる繁華街が「夜の街」と表現されているが、私は「夜の街」という言葉は差別的であると考えている。が、敢えて「夜の街」という言葉を使用するならば、今後もCOVID-19流行前のように賑やかな、いわゆる「夜の街」に直ぐさま戻ることはないのではないかと思っている。COVID-19流行がきっかけで社会のあり方が大きく変わり、その影響は比較的長期に続く可能性があるからである。
今回、昔住んでいた街の、長年お世話になった2つのお店を訪れ、人と人の繋がりを大切にすることのありがたみと重要性を再認識した。私たちがいわゆる「夜の街」に集い、食事と会話を楽しみ、賑わいが戻ることを願っている。
西條政幸(札幌市健康福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)[新型コロナウイルス感染症]