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【識者の眼】「全数把握見直しで求められるレセプトサーベイランスの構築」岡本悦司

No.5133 (2022年09月10日発行) P.59

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2022-09-02

最終更新日: 2022-09-02

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新型コロナの累積感染者数が2000万人に迫り、全数把握は医療機関のデータ入力負担の面からも困難になりつつある。5類感染症の一部は定点把握が行われているが、それにも限界はある。東京都を例にとると、都内に155機関ある内科定点のうち、多数の医療機関が集中している千代田区内には診療所1つのみ、264機関ある小児科定点も、区内には2診療所と1病院の3箇所のみにすぎない1)。こんな少数の医療機関からでは流行の規模を把握することは困難であろう。

医療機関に負担をかけず、かつリアルタイムで全数把握が可能な方法としてレセプトサーベイランスを提案したい。オンラインで提出されるレセプトの傷病コードから流行を把握する、という仕組みである。筆者は日本医療データセンター(JMDC)社の健保組合レセプトの傷病名と診療開始日だけで国立感染症研究所が公表する週報とほぼ同じ流行パターンを把握できることを明らかにした2))。もっとも当時はまだ紙レセプトの時代であり、実現は困難だった。

レセプトが完全オンライン化された今、レセプトデータを日単位で収集する技術的条件は整った。新型コロナの傷病コードも付与され、協会けんぽが提供するレセプトデータから新型コロナの医療費推計も可能となっている3)。残された制約は、暦月単位で提出しなければならないという紙レセプト時代のままの制度のため、迅速に流行把握できない点である。新型コロナ全数把握の見直しが、日単位で請求されるレセプトデータにより、あらゆる疾病の流行を把握できるレセプトサーベイランス構築の契機となることを期待したい。

【文献】

1)東京都感染症発生動向調査事業報告書(2021年).

   https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/year/2021/2021-3.pdf

2)岡本悦司:レセプトによる経口感染症サーベイランスと医療費推計. 厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究「わが国における飲食に起因する経口感染症の被害推計の精密化に関する研究」(研究代表者:谷原真一)2004年度報告書. 

   https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2004/043101/200400592A/200400592A0001.pdf

3)岡本悦司:日医療経営会誌. 2022;16(1):59-69.

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[新型コロナウイルス感染症]

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