No.5133 (2022年09月10日発行) P.60
横山彰仁 (高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)
登録日: 2022-09-02
最終更新日: 2022-09-02
新たな専門医制度が開始され、紆余曲折を経て私の属する内科では2回目の日本専門医機構の認定専門医が誕生しようとしている。基本領域は歴史的に定着している18領域に総合診療を加えた19領域となっているが、現在はサブ領域の認定が大きな問題になっている。基本領域と同様の機構認定領域に加えて、基本領域が認定し機構が承認するものもあり、やや混乱しているように思われる。ここで基本に立ち返り、改めて機構専門医とは何かを考えておきたい。
専門医の歴史は古く、ヒポクラテスと同時期の紀元前5世紀に生きたヘロドトスの著作『歴史』には、エジプトでは、頭や目、腹部の医者、患部不明の病気の医者など専門分化しており、それぞれの医者は専門外を診ないため、いたるところに医者だらけという有様だったと揶揄するように書かれている。学問が進歩した現代では専門分化は当然の帰結と考えられるが、一方で総合診療あるいは総合内科といった、領域の広さを専門とするものも併せて必要となっているのは古今東西同じかもしれない。
基準もバラバラながらすべて「専門医」という名称が使われ、国民にその質が分かりにくかったために、新たな専門医制度は、信頼される制度の構築の必要性から始まった。新制度の「専門医」とは標準的な診療ができる医師とされ、特別な技能を持つものに与えられるものではない。そこで新制度では、どのような過程(プログラム・カリキュラム)を経れば、標準的な治療ができる専門医となれるのかを明示し、第三者によってその過程と個々の専門医の質を保証しようということだと理解している。
これまでは、たとえば内科以外を専門として活躍した人が内科医として、あるいは皮膚科以外の人が皮膚科医として標榜・開業することができた。経歴と異なる領域であったとしても、開業にあたって内科や皮膚科の「研修」を行えば当該領域の資格がある、という主張ができるわけだが、今後はその「研修」の内容を明確に規定して、第三者(日本専門医機構)が研修したことおよび研修した結果である専門医の質を国民に保証しようというのが新制度である。〇〇専門医はすべからく〇〇領域の標準的な診療ができる、という質の保証を第三者機関が行うのであり、標榜と専門が明確になり、国民に分かりやく安心できるものとなる。もちろん、これまでも適切に運用してきた学会が多いが、特にサブ領域の新制度においては統一プログラム・カリキュラムの実施によって、第三者による〇〇専門医の均質性を含めた質の担保が重要である。当然そこには脇道もバイパスもないという、新制度のコンセプトが正しく理解される必要があるだろう。
横山彰仁(高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)[第三者による質の担保]