No.5140 (2022年10月29日発行) P.57
竹村洋典 (東京女子医科大学総合診療・総合内科学分野教授)
登録日: 2022-10-05
最終更新日: 2022-10-05
医療の供給と需要のバランスは、地域によって様々である。大都市の医療需要は2040年代まで供給を上回って続くらしい。特に在宅医療の需要超過はしばらく続き、また入院病床、すなわち病院の需要も超過傾向にある。一方、地方によっては2020年代、30年代に医療需要が低迷する地域は少なくない。実際、既に現在も医療の供給に比べ医療需要が低下しているような地域も存在している。とはいえ、住民数、患者数が少なくとも、医療がその人たちに必要なのは間違いないのだが。
医療需要が低い地域でも在宅医療と入院病床(病院)の需要がまだある地域はある。しかも、後期高齢者の患者が年々多くなり、治癒よりもより良い死に方、死ぬ場所を希求する傾向が強まるかもしれない。それゆえに在宅医療ができる医師のニーズは高い。また、特に大都市においては他の地方と比べて地価が高いため、小規模病院には多くの専門診療科の医師を財政的に雇用することが難しい。包括的医療を提供できるような医師が必要とされる。
こうした状況により、今後20余年は、特に大都市において、在宅医療や病院でのホスピタリスト的な機能が効果的に実施できる総合診療医の需要が増大することが考えられる。
ところで、地方の過疎地においては、医師数が少ないので、たくさんの系統の医療をできる包括的な総合診療医が必要とされる。一方で、大都市は患者当たりの密度が少なくても医師数が多いので、様々な専門診療科医師の連携、または多職種の医療介護従事者などとの連携が重視される。そのため、特に大都市においては連携のできる総合診療医のニーズが大きくなると考えられる。
ただし、これから2040年代までのニーズに見合うだけの日本専門医機構認定総合診療医を育成することは難しい。地域医療に従事されているかかりつけ医などのプライマリケア担当医に、総合診療機能を具備していただくことも必要かもしれない。
今後、税収の低迷が予想され社会保障関連費の削減も考えられる。また医師も働き方改革に準拠する時代が望まれている。そして地域によっては専門診療科医師の地域偏在がある。そのような状況で日本の国民皆保険制度を維持しなくてはならない。それら難問を解決するためには、日本の各地域、特に大都市において、総合診療機能を実践できる臨床能力を身に付けるような教育方略の開発が肝要となるであろう。
竹村洋典(東京女子医科大学総合診療・総合内科学分野教授)[大都市の医療需要]