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【識者の眼】「災害時こそ、居心地のよい避難所で過ごせるように!」中村安秀

No.5139 (2022年10月22日発行) P.57

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2022-10-07

最終更新日: 2022-10-07

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台風、豪雨、火山噴火、地震。毎日のように災害情報が流れ、避難所の人々の様子がメディアに流れる。日本の避難所は決して居心地の良い環境ではない。一方、二十数年前に私が訪問したマケドニア(現在の北マケドニア共和国)のコソボ難民キャンプでは、避難後1週間の時点で、家族単位で大きな防寒用テントが配られ、祖父母と娘と子どもたちが時折笑顔を見せながら生活していた。当時、失業率が30%以上で経済的に苦しい国においても、避難民には尊厳を維持するための最低限の環境が提供されていた。

災害や紛争に対する人道支援の世界では、「スフィア基準」という世界共通のミニマム・スタンダードが使われている。1990年代のアフリカ中部のルワンダ内戦における人道支援の失敗が大きな契機となり、国際赤十字・赤新月社、国際NGO、ユニセフやWHOなどの国際機関、研究者などが集まり、スフィアプロジェクトが始まった。

2018年(第4版)のThe Sphere Handbookによれば、被災者には尊厳ある生活を営む権利および援助を受ける権利があり、実行可能なあらゆる手段を尽くして、災害や紛争の被災者の苦痛を軽減すべきであると謳われている。そして、水・衛生、食糧・栄養、住居、保健医療などについて、具体的な対応方針と目標が提示されている。

避難所でのトイレは女性用を男性用の3倍の数準備する。1人当たりの居住スペースは最低3.5m2(寒冷気候では4.5m2)が必要であり、気候や個人により違いはあるが、1人当たり7.5〜15L/日の水を飲料や調理や手洗いやトイレのために提供する必要があるという。世界の人道支援の現場では、このような具体的な数値目標を十分に意識した上で、個々の人道支援活動が行われている。

日本の避難所はあまりにも人口密度が高すぎるのである。新型コロナウイルス感染症対策の中では、通路の幅を2m以上確保するといった避難所のレイアウト例が示され、従来よりもゆったりとした避難所を提供する自治体も現れた。しかし、コロナ対策が変貌しつつある今、避難所における感染症対策がどのように変化するのか、気がかりである。難民キャンプにも適応されるスフィア基準の1人当たり最低3.5m2の居住スペースを確保し、家族単位で安心して居住できる空間を提供した上で種々の感染症対策を実施すべきであろう。以前の稠密な避難所に戻ることのないよう、被災した方が災害時にこそ居心地のよい避難所で過ごせるように祈らずにはいられない。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[スフィア基準]

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