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【識者の眼】「QOL×時間を最大化する」西 智弘

No.5147 (2022年12月17日発行) P.60

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2022-12-08

最終更新日: 2022-12-08

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「患者さんのQOLを守るために、無駄な延命は避けるべきだ」

「いや、生きている時間を延ばすことこそが最高のQOL向上の可能性だ」

といったテーマはしばしば議論になるし、医療者個人の心の中の葛藤ともなる。

しかし、この「QOLか」「延命か」という命題はそもそもその立て方からして適切なのか、という点をまず考慮すべきである。

命の時間を延ばさなければ、QOLも何もあったものではない、というのは真実である。死とは、宗教・哲学的な意味を排して純粋に生物学的な意味に限定して言えば、その人の時間の終焉である。生きてさえいれば、感じることができたであろう感情や、起きたであろう事象もゼロとなってしまう。そういった意味で、命を永らえさせることは(その人の人生の時間という意味での)QOL向上に意味がある可能性が常にある。しかし一方で、私たちはこれまでの間「1%の可能性」といった綺麗事に患者の人生を賭け、大量の苦痛を生み出してきたことも事実として受け止めておかねばならない。

では、どういった考え方をすべきか? 私はそこで、「QOLか、延命か」の二者択一ではなく、「QOL×時間の最大化」を、考え方として提案したい。患者の状態を「プラスのQOL」と「マイナスのQOL」に分け、その総和がプラスとマイナスどちらに傾いているかを評価し、そのプラスが長く続くなら延命に意味はあり、マイナスが続く見込みが高いなら延命を考えない、ということだ。つまり、その積分値をなるべく多くする、と考える。

この「QOLを積分でとらえる」ことが理解できると、治療をすべきか、差し控えるべきか、緩和的鎮静が必要かどうか(鎮静はマイナスのQOLをゼロにする行為ととらえる)、について悩みが少なくなる。もちろん、その時その時のQOLがプラスかマイナスか、については医師1人で評価するのではなく、多職種で評価するのが前提ではあるが、この考え方がカンファレンスなどで役に立つ機会が必ずあるので覚えておいて頂けるとありがたい。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[QOLを積分でとらえる]

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