No.5154 (2023年02月04日発行) P.72
小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)
登録日: 2023-01-17
最終更新日: 2023-01-17
昨年7月、『医事法判例百選』第3版が出版された。この第2事例は、医師法21条に関する都立広尾病院事件最高裁判決である。今般、医事法の教科書的判例集である『医事法判例百選』に筆者らの主張が全面的に取り上げられたことは、医療界のみならず法曹界においても「異状死体」の判断基準は、『外表異状』であることが定着したと言えるであろう。
医師法21条については、医療事故調査制度の論議の中で一旦、決着のついていたことであるが、2019年2月8日付の医事課長通知で一時混乱を来した。しかし、厚生労働省の適切な対応により、同年4月24日に追加の通知が出され、同時に『2019年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル追補版』が出されたことにより、「異状死体」の判断基準は『外表異状』によることが明確になった。今回、『医事法判例百選』第3版に拙著が全面引用されたことで、医師法21条問題に終止符が打たれたと言うことができよう。
都立広尾病院事件最高裁判決は、「判旨Ⅰ:医師法21条にいう死体の『検案』とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない。判旨Ⅱ:死体を検案して異状を認めた医師は、……医師法21条の届出義務を負うとすることは、憲法38条1項に違反しない」と判示している。
判決の意味するところは以下の通りである。「医師法21条の届出義務は、憲法38条1項に違反しない。なぜなら、医師法21条で規定する異状死体の届出義務は、診療の有無にかかわらず『検案』して『異状』を認めた全ての死体に当てはまるものである。『検案』とは死体の『外表の検査』なので、客観的に外表に異状のある死体の存在のみを届け出れば足りる。客観的に外表に異状のある死体の届出は、医師のみでなく全ての人に可能な行為である。故に、『異状死体』の存在の届出に際し、何ら診療行為との関係について供述する必要はない。従って、医師法21条の届出義務は、(外表に異状がある死体の存在のみの届出義務なので)医師に、『自己に不利益な供述』を強要するものではない」
小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[都立広尾病院事件最高裁判決][医事法判例百選]