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【識者の眼】「わが国でなぜHPVワクチン騒動が発生したか」勝田友博

No.5156 (2023年02月18日発行) P.63

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2023-02-03

最終更新日: 2023-02-03

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わが国では2013年4月にヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)ワクチンが定期接種化されたが、直後の有害事象に関する報道の影響でわずか2カ月後に積極的接種勧奨が中止され、その状態が2022年3月まで約9年弱にわたり継続された。その結果、世界中で最もHPVワクチン接種率の低い国の1つとなり、多くの国においてはHPVワクチンと検診による効果により、子宮頸癌の罹患率が減少傾向を示しているのに対し、罹患率は依然として増加傾向となっており、年間2900人が子宮頸癌で亡くなっている。

筆者は、わが国でのみこのような騒動が発生したのは偶然ではなく、必然であったと考えている。予防接種の安全性評価にはpassive surveillance(受動的調査)とactive surveillance(能動的調査)がある。受動的調査とは、有害事象を経験したヒトであれば、医療従事者に限らず被接種者や保護者などを含む誰もがその事実を報告する調査であり、有害事象発生の初期アラームとして非常に重要である。一方で、受動的調査には、コントロール群としてのワクチン非接種者の情報が含まれていないため、報告バイアスの影響を受けやすい。多くの国では、受動的調査の弱点を補うために、能動的調査を並行して行っている。

能動的調査は、ワクチン接種状況に関係なく一定の集団を継続的に調査するため、ワクチン接種群と非接種群を比較することが可能であり、バイアスの少ない、より正確なワクチンの安全性に関する情報を迅速かつ継続的に得ることが可能であるが、残念ながらわが国は能動的調査体制が確立されていない。その結果、我々は一度中止したHPVワクチンに対する積極的接種勧奨を再開するに足るエビデンスを能動的調査に基づいて迅速に獲得できず、実際の接種勧奨再開まで長い時間を要した。

現時点においても能動的調査体制が確立していないわが国においては、第2のHPVワクチン騒動はいつでも発生しうる。現在、一部ではレセプト情報を用いたわが国独自の能動的調査の設立が試みられているが、有害事象調査に特化した情報ではないため、不都合な点も多い。同じ轍を踏まないためにも、ワクチンの有害事象に対する能動的調査体制の確立は急務であると考える。

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[HPVワクチン][能動的調査]

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