政府は2月10日、「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」を閣議決定した。改正法案の内容は、①こども・子育て支援の拡充、②高齢者医療を全世代で公平に支え合うための高齢者医療制度の見直し、③医療保険制度の基盤強化等、④医療・介護の連携機能および提供体制等の基盤強化─の4点。政府は今通常国会での法案成立を目指す。
今回の改正法案で最も現場の医療機関に影響が大きいのは、④の「医療・介護の連携機能および提供体制等の基盤強化」に盛り込まれた、かかりつけ医機能の制度整備だ。
かかりつけ医機能の制度整備は、国民や患者がニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を選択して利用できるようにするもので、「かかりつけ医機能報告制度の創設」「医療機能情報提供制度の充実・強化」が柱となっている。
新たに創設されるかかりつけ医機能報告制度では、都道府県が各医療機関に「慢性の疾患を有する高齢者その他の継続的な医療を要する者に対するかかりつけ医機能」の有無や内容についての報告を求める。都道府県はこの報告に基づき、地域における医療機能の充足や、これらの機能を併せ持つ医療機関を確認・公表した上で、地域の協議の場で「不足する機能を強化する具体的方策」を検討・公表、という運用フローが想定されている。
改正法案は「かかりつけ医機能」を「医療を受ける者が身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」と定義。都道府県に報告する機能として、継続的な医療を要する患者に対し、①日常的な診療を総合的・継続的に行う機能、②診療時間以外に診療を行う機能、③病状が急変した場合等、他の医療機関や施設、居宅での療養生活などへ円滑に移行させるために必要な支援を提供する機能、④居宅等において必要な医療を提供する機能、⑤介護やその他医療サービスと連携して必要な医療を提供する機能―の5項目を明示している。
かかりつけ医機能の確認を受けた医療機関は、継続的な管理が必要とされる高齢者などの患者に対し、かかりつけ医機能として提供する医療の内容を書面交付などで説明するよう努めるとしている。
かかりつけ医機能の制度化に当たり懸念されていた、都道府県知事による「かかりつけ医機能の確認」の扱いを巡っては、2月6日の自民党厚生労働部会で、医療機関が実際に提供している医療機能と異なる報告を行った場合でも、行政処分が科される行政行為ではないことが確認された。
もう一方の柱となる医療機能情報提供制度については、「かかりつけ医を選ぶための情報が不足している」「かかりつけ医を探す方法が分からない」という指摘を踏まえ、国民にとって分かりわかりやすいかかりつけ医機能に関する情報提供を行う必要があるとして、現行制度を充実・強化する。
都道府県が情報提供を行う項目のイメージとして例示されているのは、①対象者の別(高齢者、障害者、子どもなど)、②日常的によくある疾患への幅広い対応、③医療機関の医師がかかりつけ医機能に関して受講した研修など、④入退院時の支援など他の医療機関との連携の具体的内容、⑤休日・夜間の対応を含めた在宅医療や介護との連携の具体的内容─など。具体的な項目内容については、今後有識者会議や専門家などの意見を踏まえ、詳細を検討していく。
加藤勝信厚労相は同日の記者会見で、かかりつけ医機能が発揮される制度整備について「各地域においてかかりつけ医機能をしっかりと提供できる体制を構築していくことで、これからの高齢化に伴うさまざまな医療ニーズ等にも対応していく体制をまず構築していくことが必要」と述べた。
「かかりつけ医機能」の制度整備は2024年をメドに医療法に基づく「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図るための基本的な方針(告示)」の検討を行い、2025年4月の施行を目指している。2025年度から2026年度にかけて各医療機関からの報告や地域の協議の場における「かかりつけ医機能」に関する議論を行い、医療計画には2027年度以降適宜反映していく予定だ。
このほか改正法案には、高齢者医療制度の見直しや少子化対策も盛り込まれた。後期高齢者医療については、後期高齢者の医療費を現役世代と公平に支え合うため、後期高齢者の保険料と現役世代からの支援金の伸び率が同じになる設定への見直しや後期高齢者全体の約4割に当たる年収153万円超の者に追加負担を求める保険料額上限の段階的な見直し、所得にかかる保険料率の引上げなどを行う。
少子化対策では、2024年4月から出産育児一時金の支給額を現行の42万円から50万円に引き上げ、支給費用の一部を後期高齢者医療制度が支援する。また産前産後期間の国民健康保険料を免除し、免除相当額を国や都道府県、市町村で負担する仕組みを導入する。