「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決、成立した。この改正法には「かかりつけ医機能」の報告制度などを盛り込んだ改正医療法も含まれている。その条文によると、「かかりつけ医機能」とは「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置、その他の医療の提供を行う機能」とされている。
既に小児や高齢者の中には、通い慣れた医療機関を持っている人は多い。それなのに改めて国が「かかりつけ医機能」を持っている医療機関を報告させようとする意図は何なのか。今回の改正は「かかりつけ医機能」報告制度の創設だが、経済界などの中には、これは「かかりつけ医」の制度化に向けた第一歩だとの見方もあると聞く。こうした人々は、「かかりつけ医」制度をつくることで医療費が安くなるとでも思っているのか。
今、日本の医療界は大変なのである。外来のみの診療所は、コロナで外来患者が少なくなっている。その傾向は今でも続いていて、収支は厳しいところが多い。病院はというと、急性期病院はコロナ前から入院率が70%程度で赤字のところが多く、2023年に入り、入院率はさらに低下する傾向にある。高齢化は依然として進み、有病率は上り、患者は増えるはずなのに。要するに入院期間が短縮化され、病床が多すぎるのだ。では、この状況で「かかりつけ医」制度が導入されるとどうなるか。
「かかりつけ医」となると、大抵の病気は診なければならない。本来は総合診療医が望ましいが、ほとんどいない。現在、患者が「かかりつけ医」と思って通っている医療機関の医師は、その病気が自分の専門だから診ているのであって、すべての病気の相談に乗って治療するとなると、別のスキルが必要である。国は、患者がはしご受診して同じような検査をすることで無駄な医療費が発生していると思っているのかもしれない。では、「かかりつけ医」制度が導入されればどのくらい医療費が減るのだろうか。厚生労働省は当然試算しているだろうが、医療費が高いのは高度急性期病院での高度医療である。
戦後の日本の医療提供体制は大きく整備され、日本の医療は世界に冠たるものとなった。だが、もう医療のフェーズを変えていかなければならない。ただ、現状で「かかりつけ医」制度が導入されたら、「かかりつけ医」のほとんどを占める診療所の医師は365日24時間、気の休まるときはないし、受け持ち患者の状況を常に把握しておかなければならない。診療所の医師だけを「かかりつけ医」の対象として何もかも押しつけてはならない。
ここは最低でも、入院患者や救急患者のために休日夜間対応の当直医を配置している地域の中小病院とネットワークを組むべきである。在支診・在支病の機能向上と連携をより進め、持続可能な「かかりつけ医」機能の構築を考えることが必要だ。今回の報告制度はそのために活用すべきである。
武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[かかりつけ医機能報告制度][医療費][診療所][中小病院]