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【識者の眼】「老医最近のショック2題」邉見公雄

No.5185 (2023年09月09日発行) P.64

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2023-08-29

最終更新日: 2023-08-29

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最近病気の事でちょっとしたショックを2つ受けた。1つ目は自分の事。家内や孫に「少しTVの音が大きいよ」と言われる事が多くなった。マスクやオンラインなどが原因と高を括っていたが、心配になり京大病院へ行った。聴力検査で左耳の難聴が少し進んでおり、そろそろ補聴器をとの診断。補聴器センターに入ったら、色々な形、値段の補聴器がある。眼鏡や義肢などは皆障害を補うが、補聴器は良いほうの耳につけるというのにはビックリした。理由は良いほうの聴力を守り、脳を守り認知症などを防ぐと。目から鱗。医師国家試験に出ていたら地雷問題で落ちたかもと。医師の友人達に聞いても「そうだったかな」などはっきりしない。私だけが知らなかったのでは、のショックは少し和らいだ。

2つ目は、ポジティブなものである。友人が急性骨髄性白血病と診断され入院。数クールの化学療法で10カ月で寛解退院した。副作用の苦しみは筆舌に尽くしがたいと言いながらも、我々のコロナ戦記1)2)に入院中の状況を執筆して下さった。運悪く今年2月に再発し、ドナー予定の方に膠原病が判り不適と。万事休すと相談を受け母校の京大血液内科に依頼。

この診療科で私は最も親しい同級生でクラス1の秀才S君を白血病で失っている。病室で何が欲しいかと聞くと「天下一品ラーメン」と。一乗寺の屋台に2人で夜よく食べに行っていたのである。「吉兆」「大吉」「美濃吉」でもと思っていたので拍子抜け。ボローバードを飛ばして屋台へ。病室へ持って行くと「伸びている」と。少しムカッとしたが、再び行き少し硬めを頼んで戻ると「うん、丁度良い」と。その後は何も余り食べず短い生涯を閉じた。

また、兵庫県の医系官僚幹部だった方、赤穂市民病院の新築移転の折、許認可など御指導頂いた方である。定年後、県関係に在職。突然「もう仕事は辞める、白血病が判った、何もしない」と、丹波の別荘に引っ込んでしまった。その頃は不治の病で治療は苦しい副作用が多く、成功率はきわめて低いのを内科医で知っていたのである。最近は池江璃花子さんなど成功例も多いが、その頃は夏目雅子さんなど有名人もこの病気で逝った。

しかし、今回の友人は長い前処置治療の後、ドナーバンクの骨髄移植を受け、3週間目の先日「先生、上手く生着しました」と嬉しい声。医学の進歩が私の想像以上である事を実感した瞬間であった。友人とは私共のNPOの事務局長O氏である。

【文献】

1)地域医療・介護研究会JAPAN, 他:新型コロナウイルスとの闘い 現場医師120日の記録. PHPエディターズ・グループ, 2020.

2)地域医療・介護研究会JAPAN, 他:新型コロナウイルスとの闘いⅡ 看護師が見たパンデミック. PHPエディターズ・グループ, 2021.

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[補聴器][急性骨髄性白血病]

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