No.5209 (2024年02月24日発行) P.32
神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)
登録日: 2024-02-16
最終更新日: 2024-02-16
1月1日に襲った最大震度7の能登半島地震。その地震の規模は阪神・淡路大震災の3~8倍とも言われている。
にもかかわらず、阪神・淡路大震災の死者6400人以上に比べて、死者が240人台というのは、不幸な死亡に数の多寡は関係はないものの、超過疎地における大災害であったことが起因しているに違いない。しかし過疎地だからこそ、道路や水道などのインフラが脆弱になっており、そのことが復旧に極めて時間を要している原因であろう。
当院が所在する石川県七尾市も震度6強の地震に襲われた。病院から徒歩5分圏内でさえ多くの建物が崩壊している。能登地区では当院以外のすべての病院が機能を停止した。その中で、当院は1月1日の発災直後より救急、手術、分娩、検査を止めることなく、「災害時でも医療を止めない」を実現した。
これは2013年に本館を新築したことと、2020年にBCM(Business Continuity Management)を策定していたことが大きく寄与している。具体的には、
・本館の免震建築
・2回線受電
・上水と井水の二重化による水の確保
等である。そして災害復旧を進めながら、発災から10時間後の1月2日未明には最初の分娩を、同日午後には最初の緊急全身麻酔手術を実施した。 6日より透析のフル稼働を果たし、11日までに一部損傷した耐震棟のほぼすべての病棟を復旧させた。
「医療を止めない」を実現できたのは、医療DXの先行投資をしていたことも大きい。サーバ室を免震棟に設置してあったため、サーバの損壊が皆無で電子カルテシステムが止まらなかったことや、患者を一時避難させた仮設病棟では業務用iPhoneを利用したセル単位でのケアなどが提供できたことなど、大いに診療機能の維持に貢献した。
これら災害に先行してなされた強靭化の原資は、民間病院の場合、診療報酬以外にない。一方、災害への備えなく被災した病院には、激甚災害ということもあって、強靭化のための改修費用が補助される。
新型コロナ感染症対策においても、「サージキャパシティ」という考え方があった。いま、新たな感染症の発生に備えて、平時から「余裕をもった」病床、資材、そして人員が必要だ。同様に、災害についても平時から強靭化のための投資が必要だ。
いずれの場合も、診療報酬で原資を賄うとするならば、その投資に必要な財源を入れ込むべきだろう。あるいは官民を問わず、強靭化のための必要経費を、診療報酬とは異なる補助金でみるべきではないだろうか。
能登のような過疎地は日本中至る所にある。それらの地域では、現行のすべての施設を感染症や災害に備えて強靭化するのではなく、既設の施設の利用を含めて選択と集中という考え方が必要になってくるに違いないと考えている。
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